あけましておめでとうございます。
昨年は、大変お世話になりありがとうございました。
今年もどうかよろしくお願い申し上げます。
以前にも書いたような気がしますが、年末のクリスマスのイルミネーションが年毎に華やかさを増す一方で、お正月らしさを感じる風景や行事、そして遊びが年々失われていくことに何か寂しさを感じます。
年末に自分の部屋を掃除していて、少し古い新聞の切抜きが目にとまったのでふと読んでみたら(筆者がわかりませんが)おおよそ以下のような内容でした。
『将棋が強くなるには秘訣がある。よい兄貴を持つことだ。升田名人は四男で、長兄に土蔵の中で定石を叩き込まれた。出来が悪いとげんこつで殴られた。二番目の兄からは「相手が読む以上に読め」、三番目の兄からは「工夫しろ、新しい手を編み出せ」と教えられた。米長名人も四男で二組に分かれて将棋に熱中した。谷川名人も兄と喧嘩しながら腕を磨いた。どの例を見ても兄より弟が強くなっている。これはもう偶然以上のもののようだ。つまり兄がベースキャンプを設営し、弟が登頂する。言い換えれば、兄が無駄を重ねて道を開き、弟はその道を軽い足取りで歩くということである。何人も子供を産む親が減り、兄がせっかく道を開いても、後に続く弟妹がいない。』
将棋と同じように、お正月の行事や遊びも兄弟姉妹が一緒に遊んだり楽しむことで自然に引き継がれ、上手になっていったのではないか。家族全員で楽しんだ、かるた(百人一首)や兄弟で遊んだ、こま回しも、子供がいないか一人っ子ではやってもあまり盛りあがらないだろうし、ましてや強くなるのが難しいことは容易に想像されます。
ところで一人っ子どうしの結婚となると家を継ぐ人がいなくなるという悩みが生じます。後継ぎがいないということはその家の歴史がなくなる(終わる)ことになります。また、めでたく子供が生まれても、その子供には叔父や叔母はもちろん従兄弟も一人もいないことになります。自らの体験に照らし、おじ・おば・いとこが一人もいなかった場合を想像すると、今とは生き方や考え方がどこか少しは違ったものになっていたような気がします。
少子化がもたらす関係性や親密さの希薄化は、人間の成長やこころの形成といった面でかなり影響が大きいように思います。言い換えれば、歳が近いとか互いの関係が深いということが様々なものを「繋ぎ」、「蓄え」、「高める」ために大いに有効であったということになります。
話は少し変わりますが、ここ数年多くの自動車会社で20~30年前に作られた部品表システムの再構築が行われました。いずれの場合も、最大の悩みは現在の仕組みを作った中核の人たちが殆ど退職してしまったことでした。その結果、ブラックボックス化してしまった現行システムを再構築できる人材が殆どいなくなったということです。私は高いノウハウを持ったそういった貴重な人たちに、例えが失礼かもしれませんが、「皆さんは佐渡の朱鷺と同じです。教えることの大変さは十分承知しているけれど、なんとか卵を産み、後継者を育ててほしい」とお願いしてきました。ノウハウを貰う側の人も大変ではありますが、教える側の苦労は本当に大変です。今ようやく、僅かな雛が育ち一人前になりつつあるといったところでしょうか。このように一旦切れてしまった技術や切れかかったノウハウを再び繋ごうとする場合、途方もない時間と努力が必要か、うまく行かねば繋がらなくなってしまいます。
ソフトウェアのノウハウはハードの世界にくらべ属人化する割合が大きくならざるを得ません。弊社では技術やノウハウを継承するためにいつも「Chain of Leadership」を心がけるよう努めています。技術やノウハウを指導する人のチェーンは一度切れると取り返しがつかなくなるからです。いつ誰にどのように繋ぐか、個人として会社として常に具体的に考えていなければなりません。ハードの世界でも技術が伝承しづらくなったという悩みをしばしば聞きますが、目に見えないソフトウェアの世界ではそれ以上に技術やノウハウの伝承が難しいのです。その意味で、近年急増する車載ソフト(特に制御系)の分野でもいずれ同様な、あるいは自動車がバイタルな製品であるがゆえにもっと大きな問題を抱える可能性もあります。
伝承とは伝えたい過去をそのまま繋げばよいということではありません。人は進歩のない単なる伝承や継続には魅力を感じないのだと思います。先日、京都に出張した帰りの車中で読んだ新聞に、伝統を守る使命と経済発展の必要性の狭間で悩む京都市への提言として、「伝統とは絶えざる創造があってこそ維持され発展するものである」との趣旨の記事がありました。伝統や文化は守るだけではだめだということです。クリスマスのイルミネーションは100年前にはなかったはずですが、新しい技術や創造を取り込むことでクリスマスの伝統を維持しようとしています。お正月の遊びも昔ながらの凧揚げ、こま回しのままでは現代っ子にはちっとも面白くないでしょう。日本の伝統を守るだけでなく新しい技術や創造を取り込む工夫が、大人にも子供にも足りないのがお正月の伝統が消えていくもうひとつの原因のように思います。
よき過去の資産や伝統・技術・ノウハウなどはどのようにすれば「繋ぎ」、「蓄え」、そして「高める」ことができるのでしょうか。
お正月にあたり、とかく改革・革新・変革といった威勢のよい攻めの言葉にかき消されがちな、伝統・伝承・継承といったことの大切さにも目を向け、そのなかで新しいものを創造していくことの大切さを静かに考えるのも意味あることではないかと思いました。
本年もどうかよろしくご指導のほどお願い申し上げます。
(代表取締役社長 間瀬 俊明)
PICK UP