皆さん明けましておめでとうございます。今年もどうかよろしくお願いいたします。歳のせいか最近は1年過ぎるのが本当に速く感じ、そういった意味の挨拶を交わす頻度が年毎に増えているようです。しかし同様の問いかけを若い人にしてもやはり同じ返事が戻る事も多く、あながち歳のせいだけではないようです。様々な事象に対し加速度を感じるのは、時空間を超越できるITの影響も大きいのでしょうか。
昨年は今まで以上にITに関係した話題や事件、あるいはトラブルが多かったと実感します。これはあらゆる分野でIT化が進み、社会システムや企業活動、更に個人生活にも欠くことのできない道具や仕組みになっていることの証ともいえます。更に自動車の制御やナビシステム、あるいはユビキタス家電製品など、いわゆる組み込みソフトの分野でもその適用範囲が加速度的に広がっており、プラス、マイナス両面ともに社会に及ぼす影響は益々大きくなると予測されます。
ところでソフトはこれほど世の中に浸透しているにも係わらず、その本質が意外と正しく理解されていないというか、むしろ誤解に基づく判断や対応が多いのではとの懸念を覚えます。ソフトに対立する概念としてハード(典型的には電気・機械製品など)がありますが、本質的な違いとは一体何でしょうか。私は以前から以下の5点を挙げています。
といった点です。最近のソフトの障害に対し、適切な対応を困難にしているのは、特に上記の④と⑤に関し、世論をリードするマスコミや、ITの本質をあまり理解できない企業のトップや政治家などの適切でない判断やナビゲーションの結果ではないかと思います。更に、ハードの世界における信頼性工学を混同したり、ソフトは完全無欠であるべきと絶対視する風潮などが世の中をミスリードすることにつながります。
しばしば人間の対立概念として「コンピュータが」という、あたかも意志を持った主体のような扱いをし、さらには「コンピュータだから誤謬はないはず、間違えるのはけしからん」といったニュアンスで語られます。ハードの根底は自然科学に基づいているため、信頼性や安定性についてあるレベルでの普遍性や客観性がありますが、100%人間が作るソフトほど人間的な製品はないのです。ここで言いたいのは「だからソフトウェアは信頼できない」ということでは決してありません。ご承知のように航空機が異常事態に陥った時、自動操縦に任せるか、手動に戻し、人間の判断に任せるかとの比較においては、コンピュータシステムの判断の方が正しい事が多いのです。なぜでしょうか。ここでコンピュータの方が正しいとの言い方は実は正確ではなく、「冷静な時に起こりうる緊急時の対応を考えて(人間が)作ったソフトの判断が、緊急時で動揺している一人の人間(操縦士)の判断より正しいことが多い」と言うことからです。要するに機械ではなく、そのソフトを作った人間が判断していると言うことです(緊急時のメニューとして予測されていない事態が起こった場合は当てはまりませんが)。
話がそれましたが、オンラインシステムの信頼性を確保し、あるいはシステム停止を回避するために通常は、デュプレックスシステム(障害時主系を従系に切り替える)、あるいはデュアルシステム(2系統で同時処理し障害時でも切り替え無しで続行)などを採用します(緊急性を要しない場合はデータのバックアップで済ませます)。しかし注意すべきは、これらの対策はあくまで「ばらつき」や個体差を持つハードに対してのみ有効と言うことです。先述したようにソフトは一つしかないゆえ、幾ら二重、三重にしても意味がありません。信頼性工学で有名なタグチメソッドは、ばらつきを管理することで信頼性を上げる優れた理論ですが、そもそも一つしかないソフトには、ハードと同様の対策はありえないのです。その上、100%人間の作ったルールの上で、しかも人間が1行ずつ組み上げた言語で動くわけですので、ハードとは益々違います。では一つしかない時どうするか。
解は単純で全く異なる系統(そのソフトを使わない系統)を予め考えておかねばならないということです。障害が起きる事が悪いのではなく、起きた時の対応が考えられていない事が悪いといえます。つまり、もしシステムが回復不可能な障害を起こしたら単純には、「コンピュータソフトを全く使わないルートを別系統として(例えばTELや人手のみなど)考えておく」、あるいは「フェイルセーフの道筋を作っておく」、「その部分を停止する」などの緊急避難策を予め決めておくことと思います。ソフトは一つしかない、人間が作っている、従ってミスがあるといった本質をよく理解し、それに対応した仕組みになっていれば、混乱は遥かに減ると思われます。停電したり、電車が止まったとき、混乱が限定されるのはそのことを前提にした社会の仕組みになっているからです。いたずらに障害を起こした当事者への責任追及や感情論に走ることなくソフトの本質を知り、その上での冷静な原因究明と再発防止策が望まれます。
IT化があらゆる分野で進展する中、ITに対する社会全体の正しい理解とそれに基づく適切な使いこなしが一層大切になります。弊社もIT化を推進するだけでなく、正しい理解を深める活動も積極的に行なっていきたいと考えます。
06年の新年にあたり今年も、「結果責任を負う気持ちで」引き続きご支援させていただきたいと思います。「コスト」、「効率」、「スピード」への要求が強くなればなるほど、弊社のプロダクトやサービスあるいはサポートの「品質」と「付加価値」を一段と向上させる事が重要であると信じます。本年も変わらずご指導のほど、どうかよろしくお願い申しあげます。
(代表取締役社長 間瀬 俊明)
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