今年3月から6月にかけて(準備期間:2ヶ月、教育期間:1ヶ月)、マレーシアPROTON社様(*1)において「Paper Bicycleモノづくり教育(以下、PB講座)」が実施されました。
このプロジェクトは、DIPRO社内の人材育成プログラムとして実施してきたPB講座の実績を基に、商品開発・生産プロセスの革新に寄与するR&D設計者や生産部門技術者の育成プログラムとして再構築し商品化したもので、お客様向けに実施するのは初めてのことでした。
今回、PROTON社様から設計者や生産部門技術者の育成プログラムとして実施したいとのご要請を受け、現地パートナーのDreamEDGE社(以下、DE社。DIPROニュース 2009年4月号でご紹介)と一緒に取り組んできました。初めての海外での人材育成の取り組みということもあり、言語・文化や習慣の違い、DIPRO社内での進め方との違いなどから試行錯誤の取り組みとなりましたが、何とか成果を出すことができましたので、ご紹介させていただきます。
(*1) PROTON:
1980年代にマハティール首相(当時)の国産車構想の下、政府のバックアップによって設立された国策自動車メーカー。正式名称はマレー語のPerusahaan Otomobil Nasional。イギリスの著名なスポーツカーメーカー・ロータスを傘下に持つ。
「PB講座」は、紙管や厚紙と接着材だけを使用して、人が乗って走れる自転車を開発するものです。競技会や与えられた課題に対して、チームとしていくつかのコンセプトモデルを立案して、車両としての成立性・市場調査や自分たちの想いを総合的に判断して、コンセプトモデルを絞り込みレビューに臨みます。その後、CAD/CAEなどのITツールを使い具体的な構造設計を行います。そして設計図面に従って、紙管や厚紙を工具で加工し、実際に車両として組み立てて、競技会で性能を競い合います。
この講座では、単に設計・製作するだけでなく、独創性、技術力などを力学的・理論的に立証し、優位性をアピールするプレゼンテーションの機会を、コンセプト立案、構造設計、まとめの各段階終了時に3回設けています。
この一連の商品開発プロセス体験を通して、モノづくりプロセスやIT技術を修得すると共に、問題発見・解決能力、チームワーク、リーダーシップなどの能力を伸ばしていくものです。(DIPROで実施しましたPB講座については、DIPROニュース 2007年3月号、2008年4月号、2010年3月号で掲載。)
今回のPB講座は1ヶ月間の集中教育で、コンセプトの立案から設計、製作に至る全ての工程をチーム内で行い、製作したPaper Bicycleでスピードレース、耐久レースを実施し、成績を競い合うというものです。当初の計画では、1チーム4名編成、合計5チーム20名で5台の車両を製作するという予定でした。しかし初めての取り組みでのPR不足やお客様のご事情から、1チーム2名編成で、合計4台の車両を製作して競技会を実施することで講座をスタートしました。
計画に対し一人当たりの負荷が倍増した状態、かつ初めての海外で、言語や文化・習慣の違いによるトラブルやなかなか思うように進められない状況もあり、どのように期間内に終わらせられるかが大きな課題でした。そのため、DE社を指導の前面に出して「チームの自主性を重視し側面から支援」する計画から、受講者への現物での的確なアドバイスや指導と併せて、実際の製作にも協力して「壊れずに走れる車両を、期間内に完成させるための支援」に方針を切り替えました。
このように計画と現実とのギャップから軌道修正を行った結果、私たちDIPROメンバーのマレーシアへの渡航回数と現地での滞在時間が増えることにはなってしまいましたが、全チームが、期間内にPaper Bicycleを完成させることができました。
なお、今回のPROTON社様の「PB講座」の活動状況は、DE社の下記Webでご覧いただけます。
PB講座の活動状況(DreamEDGEサイト) : http://www.vui3p.com/case_gallery.html
開講時には、今回の「PB講座」のゴールがどうなるのか皆目見当がつきませんでしたが、PROTON社の参加メンバーの前向きな姿勢と現地DE社メンバーの献身的な取り組みによって成功裏のうちに講座を終了することができました。
設計フェーズでは、CAD/CAE操作に慣れていない参加チームに対して、DE社メンバーが全面的にフォローして短期間に設計を終わらせることができました。製作フェーズでは、40度の暑さの中、私たちDIPROメンバーも、参加者と一緒になって汗を流して製作に協力し、意志の疎通も格段に良くなりました。そして各チームとも、車両の完成を日程に間に合わせるため、時間外や休日の夜中まで自主的に製作の追い込みをかけ、競技会前日までに車両を完成させることができました。
競技会の結果は、接着剤の乾燥が不十分のまま競技会に臨んだため、スピードレースで半数がリタイア、耐久レースは1台のみ完走という結果でしたが、DIPROでの実績から考えてもよく頑張ったと評価できます。
チームメンバーからは、「この講座を体験して、苦しかったがとても良かった。充実した講座だった。」、「チームワークの大切さを痛感した。」、「“モノづくりプロセス”が体験できてよかった。」、「R&Dのメンバーが参加したらもっと充実したので、次回はR&D設計者も入って一緒にやりたい」、「次回はチームアドバイザーとしてサポートしたい」などの声を聞くことができました。
何かと問題が多いプロジェクトでしたが、「モノづくりを学ぶ」という一つの目的に向かって、関係者が一丸となり目標達成した姿には、日本もマレーシアも関係なく充実感が溢れていました。
今回初めて海外で「Paper Bicycleモノづくり教育」を実施しましたが、発展途上国でも「モノづくり」の能力向上に必死になっていることを痛感しました。私たちDIPROは、自動車産業で培ったモノづくりのノウハウと富士通の持つ最先端のIT技術を融合した「モノづくりのデジタルプロセス」技術をより高度化し、今後も製造業のお客様の業務改革にお役に立ちたいと考えております。
日本の製造業の明日は、モノづくりに強い人材の育成にあると言えます。人材育成の面でもご支援させていただきたいと考えておりますので、お気軽にお声をおかけください。
(業務部 AM 関戸 俊男)
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