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DIPROニュース

2014

10月号

2014.10.10

曲面アルゴリズムの改良によるライティングシミュレーションのプログラム高速化

弊社がご提供する「CADカスタマイズ※サービス」では、これまでに多数のお客様に、CADの操作性向上など製品設計・開発の業務効率化を目的としたカスタマイズをご支援させていただきました【DIPROニュース 2012年11月号】。

弊社が得意とする自由曲面処理技術を応用して、自動車照明製品を生産するメーカー様が開発された、自動車用ランプの光学設計におけるライティングシミュレーションプログラムを著しく高速化した事例をご紹介いたします。

CADで提供されているカスタマイズツール(API:Application programming interface)により、CADソフトウエアの機能拡張および独自コマンドを追加する。

自動車用ヘッドランプの進化

かつての自動車のヘッドランプは、規格化された丸型と角型に統一された標準部品でした。その構成は、光源となるフィラメントから発する光を、背後に設置された単純な放物面の反射鏡(リフレクター)でランプ前方へ反射し、透明なライトカバーのガラス面に施されたレンズカット(レンズ機能を持たせる加工)により配光を制御するものでした。

その後、ヘッドランプ形状が自由になるとともに、クルマの意匠デザイン上重要な部品となり、複雑な形状のランプが多くなってきました。反射鏡の配光技術の向上により、レンズカットに代わり複数の反射鏡の組み合せや、非放物面の反射鏡で配光を制御することで、レンズカットのないクリアレンズが採用されるようになりました。これにより、ランプ内部の複雑な反射鏡を見せることが、ヘッドランプデザインの一部となってきました。

自動車ランプメーカー様では、早くから独自のライティングシミュレーションシステムを内製開発され、ランプの光学設計における配光性能の検証、交通上の障害物の視認性や、最高光度などの法規への適合検証などに活用されています。

高度化・複雑化されるライティングシミュレーションへの要件

現在では、ハロゲンンヘッドランプ、プロジェクター方式のバイキセノンヘッドランプ、およびLEDヘッドランプが主流となっています。またランプ内部にはクリアランスランプやDaytimeライトなどを組み込んだものもあり、ランプの構成は、バルブ(ハロゲン、キセノン、LED)、反射鏡、反射率の異なるエクステンション、凸レンズ、光導部品や光沢部品などが配置され、大変複雑なシミュレーションが必要となってきました。

また、AFSや自動防眩システムなどの最新機能は、バルブ位置や反射方向が滑らかに変化するなど、さらに多くのシミュレーションパターンが必要とされています。 さらに、道路白線や標識色の視認性などの人間工学の観点から、明るさだけでなく光の色温度(光の色)を含めたシミュレーションが必要とされています。

Adaptive Front-Lighting System。走行中のステアリング操舵方向に光軸を向け、進行方向に光を照射して視認性向上を図るシステム。

カーブを照らす
カーブを照らす

交差点を照らす
交差点を照らす


出典 : JAMAレポート 「No.105 日本の自動車技術」

テールランプでは、LED含むバルブ、反射鏡、レンズという組合せはヘッドランプと類似しますが、単純化されるヘッドランプのレンズと比較して、後方車両のヘッドライトから照らされる光を反射させる(コーナーキューブ・リフレクター)機能を有する、無数の細かな凹凸形状で配光を制御しています。また最近では、奥行感を持たせて高級に見せるために、レンズを二重にするなど、形状がさらに複雑化されています。 このため、テールランプのシミュレーションにおいては、細かなレンズ形状による反射・屈折 処理が重要となっています。

お客様の課題

ライティングシミュレーション

ライティングシミュレーションは、光源から発する光線を表現した直線と、ランプ部品を表現する自由曲面との交点を算出し、反射・屈折を繰り返す光路計算です。

自由曲面における光線との交点計算や法線方向の計算は、解析的に解が求まる二次曲面(円柱面、放物面など)とは異なり、高度な収束計算(繰り返して解を近づける手法)が必要となります。

ところが収束計算では、初期値や差分値の設定次第では解が求まらなかったり、計算時間が長くなったりする大きな課題があります。

特にハイグレード車に搭載されるような高性能で複雑なランプでは、計算時間に数日を要する場合もあり、シミュレーション回数が制限され、ランプ品質の向上が妨げられています。

弊社の取り組み

弊社はこれまでに、CAD/CAMシステムを内製開発するなど、自動車で用いられている自由曲面処理については多くの技術を蓄積してきました。こうした技術を元にした、ランプ形状の自由曲面の操作と、収束計算における初期値の精度を改善することにより、冗長な収束計算を省略しました。また、収束計算で適用されるニュートン法の改良により、収束速度を向上しました。

お客様の効果

本改良により、ライティングシミュレーションにおける光路計算処理は、従来の30倍の高速化を実現しました。また、CADに依存しない弊社独自の自由曲面処理プログラムを用いて、長時間に及ぶ交点計算処理をCADから切り離すことで、CADライセンスを解放し並行して他の作業が行えるようになりました。これにより、光学設計における配光性能の検証を繰り返し行うことが可能となり、自動車ランプの品質向上に貢献しました。

最後に

弊社の蓄積した自由曲面処理技術を、ライティングシミュレーションに限らず、視界検討や 見栄え検討、CG画像生成などに活用することで、より高精度に、より高速に処理結果を得る ためのカスタマイズを実現します。

現在お使いのシステムでの困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。

(第二技術ソリューション部 本橋 敬治郎)

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