かつてSFでしか見ることのできなかった世界が現実のものになろうとしています。今年に入ってバーチャルリアリティ(VR)/オーギュメントリアリティ(AR)技術が大きな動きを見せています。これらの技術は、ビジネスモデルに革新をもたらす5つの技術の内の1つとして捉えられており、その市場規模は2020年には1500億ドルにもなるという予測があります。
VRを実現する方法の1つにVR対応ヘッドマウントディスプレイを用いる方法があります。VRヘッドマウントディスプレイとして今年3月28日にFacebook傘下のOculusからOculus Riftが、4月5日にはHTCからViveが発売されました。そして今年秋にはSonyからPlayStation VRが発売される予定となっています。これらの機器はハードウェアやソフトウェアの向上によって、意識しなくともVR空間に入り込み、これまでにない没入感を得られるようになります。このことから今年、皆様のVRに対する意識がガラリと変わるかもしれません。
VRとは、人工的に現実感を作り出す技術です。現実感を生むためには「3次元の空間性」「実時間の相互作用性」「自己投射性」の3つが必要とされています。つまり、人にとって、創りだされた空間が自然であると感じられ、その空間の中で空間と相互作用をしながら自由に行動でき、その空間の中で自分の存在を意識できる、ということです。
つい先日、PlayStation VRのデモを見る機会がありました。これまでVRには「すぐに目が疲れる」「重い装置を被らないといけない」「頭の動きにそこまでついてこない」等々、まだまだ技術が追い付いていない印象を持っていました。しかし、装着したPlayStation VRの映像はまさに“空間”であり、360度好きなように眺めることができました。人が意識して焦点を合わせなくてもピントが合うため目の疲れを感じることもありません。自然に眺めることができると、映像そのものに俄然興味が湧いてきました。スティック状のコントローラを振り回せば映像の腕が手首の傾きまで再現され、「缶を取って下さい。」という指示に対してなんのためらいもなく左腕を突き出し、目の前にある(映像の)缶を持ち上げることができました。装着した時点では感じていた装置の重さは数分もかからないうちに気にならなくなっていました。
こうして初めてのVR体験が終了したのですが、この日の体験はこれまでのVRに対するイメージを根底から覆すものでした。映像自体に現実感がなくても、映像空間での、見る・動くなどの動作が現実の動作と極めて自然にマッチすることで違和感のない”3次元空間”を感じることに驚きました。このように映像に違和感なく「リアル」を感じると、人はその先・その次を考えるようになるのではないかと考えています。
現在VR技術はゲームや映画、テーマパークなどのエンターテイメント業界などで活用されていますが、製造業でも活用を模索されています。映像空間にリアルを感じることで「実物でないとわからない」とされていた課題をデジタル試作で解決できるようになるのではないかと考えています。
数値計算や3Dモデルの検討を重ねたにも関わらず、実物を目の前にして「居心地が悪い」「動きづらい」など不都合を感じた経験はないでしょうか。これは、「安全である」と「安心できる」の間にある差異、「作業できる」と「作業しやすい」の間にある差異から生じているものだと考えられます。VR技術は人の感覚を呼び起こすことで、これらの差異を埋めることができます。周囲を見渡せるので、足場に乗って下を覗き込むことの「怖さの感覚」を知ることができるのではないでしょうか。また、現実の動作で映像空間の操作ができるため、部品に目を向けたまま腰の工具を取る「作業の感覚」を知ることもできるのではないでしょうか。
このように、VRは現場で培ってきた技能と組み合わせることで、これまでデジタル試作の限界とされてきた課題を解決できる可能性を秘めています。すでに、運転席からの視界検討などに使われている事例もあり、VR技術の活用シーンは今後益々広がっていくでしょう。
エンターテイメント業界と製造業ではIT技術に求められる要素は異なります。製造業で扱うデータは、形状もサイズも様々な上、高い精度が求められます。また、リアリティの追求という点においても2つの業界では発想が異なります。エンターテイメント業界ではあくまで仮想空間内をいかにリアルに魅せるかが重要ですが、製造業では仮想空間と現実が一致することが重要です。私たちはVridgeRという製品の開発を通じ、製造業でのデータをより高速に、より精密に、扱うことにこだわって試行錯誤を繰り返してきました。VR技術を取り入れることで、「デジタル」と「技能」を更に協調できると考え製造業での活用方法を探求しています。すでにzSpace(ジー・スペース)、TechViz(テックビズ)といったソリューションと連携して、製造業への適応を試みております。
世の中では様々なITの新技術が開発されています。それは誰かが描いた夢を実現させたものです。そうした新技術を積極的に製造業に取り入れていくことで、製造業がさらに発展し、皆様が描く未来の実現を手助けするべく、「デジタル」と「技能」が協調し合える最適な形を追求し、バーチャルとリアルの架け橋となっていきたいと考えています。
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