風薫り、若葉の緑が日一日毎に深みを増す季節です。
今日は、そんな景色を横目に見ながら明日の製造業に思うことなどを、僭越ながら紹介させていただきたいと思います。
ここ十数年の激しい環境変化の中で、製造業各社様は求める答えを探し続けて来られましたが、技術の空洞化や台頭するアジア諸国、金融不安などと障害となる話は止まるところを知らず、ビジネスの成否は未だに予断を許さない状況かと思われます。
著書『ヘコむな、この10年が面白い!』(2010年 風雲舎)でこれからの日本の産業の行方を示している小寺圭氏(元ソニー・チャイナ会長)によれば、「日本はモノづくり国家を脱却し、事業化を通した“コト興し”や環境ビジネスに進むべき」との示唆を与えていますし、かのドラッガーは『ネクスト・ソサイエティ』(2002年 ダイヤモンド社)の中で、「日本は製造業の地位の変化を受け入れる準備ができていない」とも「労働者人口の中に占める製造業の人口を10分の1にすべき」とも述べており、日本のモノづくりに対しては終始辛口の意見です。
いずれの提言も自身の経験や各種のデータに基づいた示唆であり、われわれの周りで現実に起こる数々の問題に照らしてみても納得性があります。事実そこには技術課題や経営課題に止まらず、社会環境の問題、人や文化の問題(グローバル化やダイバーシティによる)など多種多様な重荷が横たわり、苦い予測にも納得せざるを得ない状況です。ともすると日本の製造業にとっては、暗い未来こそが確実なものであるかのようにも感じられます。
しかし、これに正対する話となる「モノづくり日本の強さ」を感じられるキーワードも、世の中を見渡せば、多数あります。
宮大工などに喩えられる匠の技や工夫は、日本人の精神性として受け継がれ、痛くない注射針(岡野工業)や世界最小のモーター(シコー技研)、カムイロケット(植松電機)などとして、その一端が結実しているように思えます。これらの比類のない技術を次々と日本から発信できている間は、将来への暗雲を払拭するだけの希望も気力も衰えざるものと感じます。
また、世界を股に掛けてのビジネスも、見知らぬ土地ながら勝利を納めているケースも多数あります。やはり途上国と比較して本業の強さは安定したものがあり、持ち前の器用さと努力を経営面にも発揮して、リスクを乗り越えれば、そこにあるのは紛れもない勝利のはずです。
己に負ける以外には、負ける道などないとさえ言えそうです。
さて、こうして考えてみると、このあとの日本の浮き沈みの可能性は、五分五分という感じさえしてきます。実際のところ、どこにわれわれの来るべき未来があるのか、その解釈は多面的な現実をどう見るかに依存しているようです。
さて、常に話題であり続けているグローバル化は、もとより企業活動に限った話ではありません。国境を越えた人の交流は国際家族を増やし、環境や社会基盤に依らず種々雑多な価値観や合意の中で社会活動が繰り広げられています。他国間や競合他社との間で、ビジネスを争っているとしても、そこにいる人々は繋がりのある人と人である、という構図も見えます。つまり製品を作り、売るという活動は企業対企業、国対国という経済競争と考えるべきではなく、お客様となる人々の生活や社会を良くするための社会貢献だと考えるべき事柄に思えます。
ならばこの時代、何が正解だとか、筋を通すという取捨選択の発想よりも、違いに興味を持ちバリエーションの多さを楽しむという包容や寛容さ、協調性を尊ぶ発想の方が、時代に適合していると思えます。ビジネスを進める上でも、勝ち上がるためや生き残るために、という意識で動機を固めるのではなく、人や社会を良くしようというホスピタリティ(思いやり)や慈しみの気持ちを動機にするという発想です。
もし、そんなネットワークができるなら、昨今の社会不安も随分と払拭できるのではないかと思います。
昨年の震災のあと、混乱の渦中にあった日本人の振舞いは世界中で取り沙汰されました。ハーバードのマイケル・サンデル教授によれば、世界でも類を見ない日本人の秩序と礼節、美徳という話になるようですが、いずれにせよ他の国では見られない特徴(特長)のようです。この源流を辿れば、それは大和の国の血であり、聖徳太子が説いた「和をもって尊しとなす」の精神であるような気さえします。この現代、われわれの血の中に流れる、この類い希な人間的特質や習性を活かして、日本発で世界初の新しいモノづくりの文化を世界に拡げられるのなら、これ以上に楽しいことはないはずです。
これまで、日本のモノづくりの強みとして言われ続けてきた「擦り合わせ」技術が、新しい国際社会の中で、この「和を尊ぶ精神」にしたがい、各国の特長や人種毎の個性を紡ぎ合わせて、融合したモノづくりを導き出せるなら、それこそが日本発で世界初となるに違いありません。
先の見えない毎日ではありますが、日本発の新しい流れに思いを馳せて、そしてまた現場、現物、現実に向き直ってみてはどうかと思います。
(技術ソリューション部 部長SE 吉野)
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