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DIPROニュース

2014

12月号

2014.12.10

オートモーティブデジタルプロセスセミナー2014開催

オートモーティブデジタルプロセスセミナー2014

オートモーティブデジタルプロセスセミナー2014

11月28日(金)、パシフィコ横浜において「オートモーティブデジタルプロセスセミナー2014」を開催いたしました。ご来場の皆様ならびに開催にご協力いただきました皆様に厚くお礼申し上げます。

今回のセミナーは、産業社会全体としての大きな目標とされる『環境』をキーワードとし、近年自動車産業が直面する『自然環境/エネルギー問題』に向けたHVを筆頭とする電動化への取り組みや、交通渋滞や交通安全等の『社会環境問題』に向けた自動運転への取り組みのご紹介、そしてそれら先進的な取り組みを実現して行く為のITインフラはどうあるべきかといったことを中心に企画いたしました。

通算で22回目の今回は、基調講演として東京大学先端科学技術研究センター教授 西成 活裕様に『自然に学ぶ渋滞解消法』と題し、複雑な問題を乗り越えていくための技術のあり方をお話しいただきました。続いてトヨタ自動車株式会社 取締役・専務役員 嵯峨 宏英様に『トヨタのHV 開発マネジメント』と題し、極めて幅広い新規要素技術を結集して進められるHV開発での取り組みをお話しいただきました。そして日産自動車株式会社 フェロー 久村 春芳様に『“考えるクルマ”と交通社会の未来』と題し、クルマの知能化そして自動運転に向けた先進の取り組みについてお話しいただきました。最後に、毎回ご好評をいただいておりますパネルディスカッションにて、国内主要自動車メーカーのIT及び技術情報管理のキーマンであられます、トヨタ自動車株式会社の江口 浩二様、日産自動車株式会社の笹川 正彦様、株式会社本田技術研究所の中嶋 守様、マツダ株式会社の國川隆様、三菱自動車工業株式会社の野村 雅彦様、スズキ株式会社の永井 利典様にご登壇いただき、各社の状況及び最新の課題について語っていただきました。

基調講演:『自然に学ぶ渋滞解消法』
東京大学 先端科学技術研究センター 教授 西成 活裕様

東京大学 先端科学技術研究センター 教授 西成 活裕様

西成様は冒頭に、今日は自然科学者として違った視点で渋滞についての話をします、歴史上の偉大な科学者が共通して言っている”自然は無駄をしない”、これを学ぶことが科学者としてのスタートである、このような話から始められ、1時間の講演で、動画を用いながら様々な事例をお話しくださいました。

長い歴史の中で生き残ってきた生物は、常に最適ではなく、そこそこ最適な方法「準最適」を選択してきた生物が生き残ってきているそうです。つまり環境が変動する中で最適を常に追っていると、現状が変動する度に大きなコストがかかります。「準最適」を選択することにより、変化に柔軟に対応することが可能になります。長期的視野で見ると、生物は最適な戦略をとりながら、しかもジレンマをうまくバランスとりながら進化してきているそうです。

さらに、もう一例、蟻の行列とはよく言いますが、蟻を3カ月間観察した結果、蟻は渋滞しないことがわかったそうです。なぜ蟻は詰めないのか(渋滞しないのか)、蟻は混んでも詰めないそうです。蟻は進化の歴史で学んでおり、うまくいった蟻だけが生き残っているのです。こういった自然界での現象を教訓とし、渋滞学に応用し、研究を続けられているそうです。

車、人の流れ、いろいろな共通点がある渋滞に、自然科学を工学的に応用しながら、研究を続けられています。車の実験例では、車の流れに渋滞解消車を設定し、40m以上の車間距離を取らせることにより、全体として渋滞することなく早くなり、燃費が36%も良くなるそうです。また、実際の高速道路や、人の流れの実験を通して、渋滞の要因を無くすと別の要因が発生するそうです。人はトータルな視点が欠けていることが多い、局所的な対応ではなく常に「全体最適」を考える必要がある、と何度も言われていました。

渋滞問題を考える3つの視点、ハード、ソフト、人に分けて「全体最適」を説明くださいました。例えば、渋滞を解消するために、ハード=道路の拡張、ソフト=混雑情報の配信、人=交通教育、どれか一つだけでも問題解決には至らない、ハードは強制力はあるが環境変化に弱い、ソフトに柔軟性はあるが強制力はない、人も柔軟性はあっても時間がかかります。ハードを動かすのはソフト、ソフトを動かすのは人、結局は人がうまく機能しないとすべてが機能しなくなります。3つの視点をトータルで考える必要があるのです。

終了時間が迫るころ、「宗教家ではないですよ」と前置きされながら、渋滞学とは一見何の関係もない、“情けは人のためならず”「利他主義」という言葉を挙げられました。我こそはと常に誰かが得をしている、あるいは勝ち続けている状態には全体最適は存在し得ない、全体最適は利他主義の上に成立する、利他主義という譲り合いの精神、利他行動の実践こそが渋滞解消のための重要な要素なのです。そして、このことは数学的にも立証されており、西成様はこれからは技術と利他が一緒になるべきではないかと考えられ、現在も研究を進められているそうです。

最後に、”自然は常に答えを知っている”ということが20年間研究してきた中で自然界から学んだメッセージだそうです。そしてこの自然界の中でハード・ソフトの技術力をいくら高めても人間力が落ち込んでしまうと何をやっても駄目になる、すべてはバランスが大事、「“そこそこ程よし”が私は好きです」、という言葉とともに、大変奥深いご講演を締めくくられました。

『トヨタのHV開発マネジメント』
トヨタ自動車株式会社 取締役・専務役員 嵯峨 宏英様

トヨタ自動車株式会社 取締役・専務役員 嵯峨 宏英様

嵯峨様からは、ハイブリッドシステムの技術的なお話と、開発に関わるマネージメントについてお話しをいただきました。

1997年に初代プリウスを投入し、2014年9月には700万台を生産しています。価格が下がって台数が増加していることは間違いないことではありますが、やはり車の魅力が向上していることが大切です。プリウスではガソリン車では必要でもモーターでは不要なトランスミッション関係の部品を大幅に減らして軽量化に努めています。また、電池は1.2Vのセルを直列につないで280Vにしているので、一つが故障すればすべてが止まることになるので高い品質が特徴になっています。そのような意味でハイブリッド車は広範囲な世界トップの技術の集合体になっているとの事でした。

初代プリウスの開発から現行の3代目まで、ユニットの小型化と性能向上に努められました。小型化についてはモーターと電池の小型化に著しいものがありました。性能向上についてはモーターの高回転化、インバータの高電圧化などをあげられました。小型化と同時にコストの低減にも努め、ガソリン車に対するコストアップを初代の半分にする、1/4にする、1/8にするという活動をされました。また、品質向上のためには市場クレーム1件から対応をはじめ、原因追及のためのなぜなぜを繰り返してきました。また組織的には解析のチームを立ち上げて品質に関するリーダーを育成してきました。その結果品質に関してプリウスはいまやダントツのナンバー1になっているそうです。

ハイブリッド車の開発は初代から関係する開発者が一堂に会することのできる大部屋がもたれてきましたが、初代ではモータ、PCU、電池と言ったHVユニットの大部屋でした。2代目ではエンジン、トランスミッションなども加わった技術部大部屋となり、AQUAの開発時点では仕入れ先、工場も加えた大部屋が誕生したそうです。大部屋のメリットは徹底したディスカッションができること、決められる人が即断できるということです。そこでAQUAの大きな課題であった燃費の世界ナンバー1と小型・低価格化に取り組まれました。特にモーターの開発では、ステータ部分の巻線を先に成型し後からコアを挿入する方式を採用して生産の自動化を実現させました。また時間がない中での開発であったため、設計者が持っていた悪い意味での上から目線なども取り払らい、腹を割って話し合わざるを得なかったことが大変良い事だったと回想されました。

最後に、ハイブリッドの開発を通じて、開発で大切なことは真の技術力、開発力が必要であること、本当に必要なことは何かを見極めること、ではないかということでした。

また、当たり前のことを愚直にやるしか無いが、成長を感じながら楽しくできるかどうかが大切で技術の進歩や人間の能力には限界はないという事も開発を通して感じたというお話で締めくくられました。

『"考えるクルマ"と交通社会の未来』
日産自動車株式会社 フェロー 久村 春芳 様

日産自動車株式会社 フェロー 久村 春芳 様

久村様は、『人の移動距離は豊かさの象徴』―「GDP(国内総生産)の増加に伴って移動距離が増える」ということを証明する幾つかのデータを基に話されました。国別にGDPが高い順に並べてみると、新興国グループから先進国グループへはまさに右肩上がりになっており一目瞭然であること、また、インドや中国など新興国グループ内ではGDPの上昇に伴い移動手段の変化がバスや鉄道から車や飛行機に変わり、米国や日本など先進国グループ内では、不況からGDPが伸び悩み移動距離が伸びていないことがわかりました。

『直面する車社会の課題』として、クルマが増えると「エネルギー(問題)」、「地球温暖化」、「渋滞」や「交通事故」等の負の要素が増えてくるが、日産自動車としては、その対応として2つのゴール『電動化への取り組み』と『知能化への取り組み』を用意したとのことです。

先ず、「電動化への取り組み」です。日産のEV車であるリーフのモニターデータを基に作成したビデオをご紹介いただき、電気自動車の普及が負の要素の解決に多大に貢献できることを具体的な資料をもとに説明されました。

次に、「知能化への取り組み」については、交通社会の課題である「事故」、「渋滞」、「高齢化」や「運転時間」は経済的な損失が大きく、これらへの対応は必須であり、そのアプローチとして考えた「自動運転」に世間の関心が高まっているとのことです。日産自動車の横浜本社から金沢八景への実車による自動運転ビデオをご紹介いただいたき、自動運転には「自律型」、「車-車間協調型」、「中央管制型」の3つの適用形態があり、それぞれを考えておく必要があるとして、一つずつ丁寧な説明がありました。先ず「自律型」の例としては、スピードは遅いものの止め方の精度が厳しい「駐車の仕方」や、「路肩停止車両の追い越し方」、「急な飛び出しへの回避方法」、「信号停止とスタートの仕方」などがあります。続いて「車-車間協調型」ですが、魚群のように等距離で海中を泳ぐ姿を真似て、一定の場所にある何台かの車両を一つの群と見なして、動きの共同化や共用化を図ります。3番目の「中央管制型」では、東名高速の渋滞のシーンが映し出され、渋滞の原因は本日の基調講演者である西成先生の渋滞学で説明できると話され、中央管制型が導入されれば適正運転や適性車間距離の保持が可能となり、大幅な渋滞緩和が図れると力説されました。

最後に、『知能化が創る未来』として、自動運転をより進化させるための必要な技術と乗り越えるべき課題を述べられ、「今後、『電動化』と『知能化』が創る交通社会を到来させるためには、会場にいる皆様の協力が不可欠」との言葉で締めくくられました。

パネルディスカッション
『PDMからPLMへの革新~将来に向けた部品表はどうあるべきか~』

トヨタ自動車㈱ 江口 浩二様
日産自動車㈱ 笹川 正彦様
㈱本田技術研究所 中嶋 守様
マツダ㈱ 國川 隆様
三菱自動車工業㈱ 野村 雅彦様
スズキ㈱ 永井 利典様

司会 河野 茂

近年の自動車業界では、グローバル化のみならず、3Dモデルを活用したプロセス改革により、仕事のやり方が大きく変化しており、さらには電子制御を搭載した部品やシステムの採用が進むにつれ、車社会自体も大きく変わろうとしています。このような中で、今年は、自動車各社の業務管理部署、システム部署、ユーザー部署のキーマンにご登壇いただき、「PDMからPLMへの革新~将来に向けた部品表はどうあるべきか~」というテーマに対し、3つのサブテーマの下、これからの技術情報管理の進め方について議論いただきました。

最初に、これまでの環境変化とBOMの変遷をもとに、従来どおり部品表を軸にした開発を進めるのか、あるいは変える必要があるのか、といった考え方を織り交ぜながら「自動車業界を取り巻く課題」として、それぞれの部品表の概要と課題をご紹介いただきました。ここでは今後ますます増えていく電子・電装システムによる複雑化、あるいはアライアンスや協業により多様化する仕様、仕向地、またそのような状況においての異なる言語や異なる表現を共通化する辞書のようなものが必要、といったグローバル化においての具体的な課題が挙げられました。

「PDM/BOMからPLMへ」という二つ目のサブテーマについては、PLMとは、BOM、PDM、電子制御などが管理された状態で、必要な情報を必要な時に必要な人が容易に取得できる姿であるというユーザー視点での考え方や、物事をデータ視点でとらえ、データの一気通貫という姿であるという考え方など、それぞれで解釈されたPLMを語っていただきました。さらにそこから司会者がCADとBOMとの連携について深堀りしていくと、連携となるキーが部品番号だとすると、PDMとBOMとの連携は初期検討段階ではソフトに、後工程になるほどハードに連携させていくというように、部品番号そのものの考え方を変える必要があるのか、といった議論がなされました。

時間が押し迫る中、「将来に向けて」という最後のテーマでは、司会者より二つの問題を提起しました。マトリクスで表現する日本式は上位の仕様から部品に落としていくアプローチ、それに対し論理式で表現する欧米式は部品が何に使われていくかという上位へのアプローチ、設計者のイメージで表現しようとすると欧米式の方が合っているのではという考え方、そして車両仕様の複雑さなどについてお話しいただきました。共通していたのは、現場を理解しなければ絵に描いた餅に過ぎない、設計者フレンドリーでなければならない、という思いでした。

あっという間に予定時間が過ぎてしまいました。想定外の質問に対し各社の現状や課題、お考えなどそこまでご説明いただけるのかといった内容までお話しいただいたパネリスト皆様の将来に向けた思いを一言ずついただきながら、まだまだお聞きしたいという思いと感謝の気持ちの拍手とともにパネルディスカッションが終えられました。

全体を通して

講演の合間の休憩時間には、講演会場外のホワイエにて、弊社及びグループ企業から15のソリューションのデモや展示が行われました。30分という短い時間ではありましたが、お客様は弊社説明員から熱心に説明を聞かれたり、質問されているお姿が随所に見受けられました。

セミナー終了後の懇親会では、いつもの顔や新しい顔が入り混じって、今年も大盛況でした。

頂いたアンケートを眺めますと、参加された方の9割超が本セミナーが役に立ったとの評価を頂きました。また、来年もやって欲しいというご意見も多数いただいております。セミナーへの要望や改善点については、次回に役立たせていただきます。そして、お客様の業務に関する様々なお悩みやご相談につきましては、弊社営業やSEが別途、詳細をお聞きして、より良いご提案をさせていただきたいと考えております。

お客様のお役に立てる情報を発信しながら、お客様の悩みを解決できる企業を目指し、社員一同、更に精進してまいりますので、今後とも弊社をお引き立ていただきますようお願い申し上げます。

(DIPROニュース編集局)

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