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DIPROニュース

2023

2月号

2023.02.09

“モノづくり”へのデータサイエンス活用の取り組み
~設計開発知見の蓄積と活用に向けて~

いまだ新型コロナウイルス感染症は収束の兆しが見えませんが、徐々にポストコロナを前提とした環境へと移行しつつあります。2020年以降、製造業を取り巻く環境も大きく変化してきています。「ものづくり白書2022」[1]では、製造業の状況を以下にように述べています。

(生産動向)

2020→2021では回復基調だったが、その後の半導体不足や原材料の高騰等により悪化。

(設備投資)

2020→2021では大きく落ち込んだが、やや回復傾向。今後3年では増加見込み。

このような中、製造業におけるデジタル技術の活用にも、以下のような変化が見えてきています。

  1. IT投資は横ばいだが、投資したい課題は「働き方改革」、「社内コミュニケーション強化」から「ビジネスモデルの変革」に移行。
  2. サプライチェーンを含めたサイバーセキュリティ対策やカーボンニュートラル(脱炭素化、CO2排出量・削減量の可視化)への取組みの拡大。
  3. 「生産性向上」「技術継承」等を目的としたデジタル技術(IT・データ)活用を担う人材確保・育成の取組みが拡大。

特に企業の競争力の向上に向けては、上記を踏まえたDXの取組み(特にデータ活用)の必要性を「DXによる競争力向上」[2]で述べています。

今回は、この“DXによる競争力向上”のために重要な先端デジタル技術である、データサイエンス技術について、弊社での取組み状況をご紹介します。

[1]
2022年版ものづくり白書(METI / 経済産業省)
[2]
第2節 DXによる競争力向上(METI / 経済産業省)PDF6,330KB)

データサイエンスとは何か?

データサイエンス技術は、一昨年および昨年のDIPROニュース[3][4]でもご紹介しましたが、近年、製品開発の各所に広がりを見せており、データ駆動型の製品開発の中核技術として活用されている技術分野です。本項では、この技術の概要を解説します。

[3]
“モノづくり”へのデータサイエンス活用の取り組み [DIPROニュース2021年1月号]
[4]
“モノづくり”へのデータサイエンス活用の取り組み [DIPROニュース2022年2月号]

データサイエンスで出来ること

データサイエンスとは、概念的には下図のように表現できます。平易な言葉で記述すると、「データから法則を見つけて、その法則を利用する」ための技術です。

①データを集める データを集め、“機械学習”できる様に整理・加工する ②法則を見つける “機械学習”は、データから法則を見つけ、結果を予測する ③法則を利用する
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データサイエンスには様々な理論や技術が含まれますが、中心的な要素技術として、データのモデル化のために機械学習を駆使しています。

どんな事に役立つのか?

データサイエンス技術は、様々な種類のデータを扱います。扱うデータの種類により、そのデータに適した評価技術を使い分けることになりますが、概略としては下図のように、“情報の抽出”、“データのモデル化”、“処理の効率化”に大きな効果を発揮します。

データサイエンス 機械学習・ディープラーニング・データマイニング・自然言語処理(テキストマイニング)情報抽出-蓄積した技術情報から、ノウハウ等の情報を抽出し構造化する。モデル化-数理的なモデル化が困難で、数式化ができない問題をデータから予測モデルを構築する。実験・実測データ、あるいはCAE結果データ等から、予測モデルを構築する。 効率化-データから構築した予測モデルを使い、検討処理や検討プロセスを大幅に短縮する
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引き続き、これらの技術を使うことの重要性について考えてみたいと思います。

モノづくりDXとデータ活用の重要性

モノづくりの設計領域でデータ蓄積・活用が進まない理由

設計開発プロセスの過程でデータは生成されていますが、ドキュメント(報告書類等)、図面、CADデータ、実験データ、解析データといった種類の異なる非構造化データが多数を占めています。情報が構造化(整理された)データと異なり、必要な情報へ容易にアクセスするための整理・管理が十分でないことが、データの蓄積や活用が進まない一つの理由ではないかと思います。

蓄積したデータに開発力向上のための鍵がある

一方で、開発過程で生まれたデータには、様々な情報が含まれています。ベテランに限らず、開発に携わった技術者の知見(暗黙知)やノウハウが埋もれています。例えば、蓄積したデータの種類ごとに、下記のような活用方法が考えられます。

  1. 実験データや解析データ等の数値系データは、蓄積データから構築したサロゲートモデル[4]を通じて、技術者の知見(暗黙知)やノウハウの妥当性を確認する。また、設計パラメータの感度分析や、新規製品開発の(統計確率的な)機能・性能予測モデル構築に活用する。
  2. ドキュメント(報告書類等)の文書系データは、自然言語処理技術[4]を応用することで、蓄積データから、今まで埋もれていた技術者の知見(暗黙知)やノウハウの整理・管理が可能。また、整理した技術情報へのアクセスを容易にすることで、技術者の思考やアイデア創りを支援。

このように蓄積したデータは、開発の効率化や製品価値の向上へ繋がる可能性を秘めています。

蓄積したデータの価値を製品開発に活かすために

製品の付加価値を生み出すための、モノづくりの製品開発プロセス革新(以下、モノづくりDX)実現のためには、開発過程で生まれたデータを蓄積・活用することが重要となってきています。たとえば、蓄積データに含まれる、知見やノウハウを可視化した技術情報にアクセスするためには、以下の過程が必要です。

  1. アクセス(検索)対象となる、現在のプロセスでの蓄積データの分析と整理
  2. 想定されるモノづくりDXの中で生成するデータの定義・整理
  3. モノづくりDXでのデータ管理内容の定義とアクセスのためのシステムの定義・構築

特に、モノづくりDXでは、②③の過程で、データ管理の目標設定 / ルール設定、業務プロセスの標準化、データベースのデザイン、開発プロセスにおける蓄積データ活用のユースケース定義が重要となってきます。次項では、技術者が蓄積データから価値を生み出すための活用例をご紹介します。

データサイエンス技術による蓄積データの活用例

弊社で取り組んでいるデータサイエンス技術は、主に「サロゲートモデル構築技術」と「データマイニング技術」です。これらの技術を駆使しながら、製品開発プロセスの中で生成・蓄積されるデータの活用イメージ例が下図になります。

データマイニング(文書系データ)蓄積ドキュメントからベテランの知見を抽出(テキストマイニング)→データ分析・予測モデル構築(数値系データ)データ分析・統計モデルによる予測・高精度・内製化・運用(サロゲートモデル化)⇔データ分析成果を取り込んだCAEによる予測&分析(コリレーション・デジタルツイン)⇔知見に由来した仮説によるCAE(スクラップ解析モデル化など)→ものづくりDX使いこなし 不良品をなくす手法(プロセス)への知見の落とし込み(多目的最適化、生技CAE検討、プロセスマイニングなど)
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以降は、蓄積データの具体的な活用例を見ていきます。

活用例1:蓄積データから“技術知見を抽出”し設計品質を向上する

最初の活用例は、製品設計工程の設計DRでの蓄積データ(文書情報)の活用です。

この例では、現行プロセスにおける “解決したい課題” は以下の2点になります。

現行プロセス:検討スタート 課題1(設計・検討→DR資料作成)→DR#1→課題2(F/B対応)→DR#2→仕様提示手配→検討納期
設計DRの概略プロセス(現行)
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課題1:情報検索に多大な工数が必要

  • 過去の報告資料や前型製品データを参考に検討したいが、資料の探索に多大な時間を要する。探索に時間をかけても、結局、資料がみつからない場合もある。
  • 探索できる情報の範囲は、設計担当者が想定できる要件範囲でしか探すことができない。

課題2:製品品質への付加価値検討へ踏込めない

  • 設計担当者が気付かない要件が、経験者・ベテラン技術者のDR時の指摘で、ここで初めて顕在化する。
  • DRの際は、製品の“当たり前品質”に関する指摘が多くなりがちで、“魅力品質”向上のための高レベルな議論の優先度が落とされ、結果として付加価値向上の検討に踏み込めない。

上記の課題に対して、データマイニング技術を活用した“技術知見の抽出”と、抽出により得られた機械学習モデル(以下AIモデル)を活用して、下図のようなプロセスへと変えることが可能です。

現行プロセス:検討スタート 設計・検討→DR資料作成→DR#1→F/B対応→DR#2→仕様提示手配→検討納期 AI活用後:検討スタート 設計・検討(効果1:AIモデルによる自動検索・事前チェック)→DR資料作成→DR→F/B対応(効果2:品質作りこみ)→仕様提示手配→期間短縮 検討納期
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対策:検索システムにAIモデルを活用

  • 技術情報の蓄積データから、データマイニングによる知見の抽出を実施。対象データに対するAIモデルを作成。
  • 情報検索システムにAIモデルを組み込むことで、製品情報や知見に基づく検索が可能。

効果1:“情報検索に多大な工数が必要”に対して

  • 仕掛中の検討資料をシステムにインプットするだけで自動検索するため検索時間が大幅に削減。
  • 設計担当者が気付かない要件でも探索することが可能。
  • 資料作成者に内容の確認や、打合せ日程等の調整が必要なく、いつでも何度でも、誰でも探すことが可能。

効果2:“製品品質への付加価値検討へ踏込めない“に対して

  • AIモデルによる事前チェックにより、検討品質が高い状態でDRを受審。より高いレベルの議論・指摘が可能。
  • 最初のDR時点で検討品質が高いので、あらためてのDR#2を省略。日程調整等手間を省略。

また、プロセス全体への効果としては、納期までの期間短縮(効率化)と短縮した期間を使って、魅力品質の作りこみ(高品質化)が期待されます。

活用例2:蓄積データから“技術知見を抽出”し性能評価を効率化する

2つ目の活用例は、蓄積データ(文書情報・数値情報)から技術知見を抽出し、製品の機能・性能評価に関する効率化と信頼性向上への活用です。

下図は、製品開発における機能・性能評価における統計モデル(サロゲートモデル)とCAEの各設計段階での活用例です。いずれのモデルも、最終的には設計制約の中での機能・性能の最適解を探すためのツールになります。

蓄積データ⇔~概念設計段階~(サロゲートモデル化)・データ分析・統計モデルによる予測・高精度・内製化・運用→~詳細設計段階~(コリレーション・デジタルツイン)データ分析成果を取り込んだCAEによる予測&分析⇔知見に由来した仮説によるCAE
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特に設計初期の概念設計段階では、多くの設計パラメータによる検討結果から設計候補案を絞り込むことになると思います。サロゲートモデルは検討効率化のための強力なツールとなりますが、サロゲートモデルの信頼性や妥当性については蓄積データに依存するため、技術知見を抽出し、信頼性評価に活用できることが重要になります。

下図は、蓄積データ(数値系データ)からサロゲートモデルを構築する際に、製品開発の技術知見(文書系データ)をモデル構築へ利用した例です。

蓄積データ→蓄積ドキュメントからベテランの知見を抽出→サロゲートモデル化(データ分析・統計モデルによる予測・高精度・内製化・運用→サロゲートモデルOK・NG予側、同時に過去の参考データを提示)
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蓄積データ(数値系データ)からモデルを高精度で構築するためには、特徴量の適切な選択が重要になります。この選択の指針となる技術知見(文書系データ)が予め得られていることが重要であり、モデルの妥当性や信頼性を向上する要素となります。また結果として、蓄積データを活用することで、概念設計段階での機能・性能検の検討品質向上・効率化への寄与が期待されます。

データサイエンス技術活用のご支援について

以上、データサイエンス技術の活用例等を解説してきましたが、最後に、“モノづくり”でデータサイエンス技術を活用するために重要なこと、および弊社がご支援している内容をご紹介します。

データサイエンス技術の活用で重要なこと

“モノづくり”の領域でデータサイエンスを活用するためには、当然ですがデータサイエンス技術に精通している必要があります。たとえば、データを処理・加工するための“ツールの使いこなし”、データからどのようなモデル化が適切かを判断する“分析技術”、分析結果から機械学習などのモデル化するための“モデル化技術”が挙げられます。

エンジニアリング業務知見 データサイエンス技術開発 ツールの使いこなし 分析・評価技術 モデル化技術

一方で、“モノづくり”へデータサイエンスを活用するために、データサイエンス技術に精通しているだけでは不足していると考えます。それは、開発現場で蓄積しているデータは、“モノづくり”の情報を含んでおり、様々な製品に関する物理的な条件や制約、開発や製造の意図などが隠れた情報(暗黙知)として含まれているため、これらの暗黙知を形式知化するためのエンジニアリング的な知見や技術が必要となります。弊社では、これら両方の技術と知見をもったエンジニアがデータサイエンス技術活用をご支援しています。

“モノづくり”へのデータサイエンス技術活用のためのご支援内容

今回ご紹介した事例を自社に適用したい等のご相談も含めて、以下のようなデータサイエンス活用をご支援しています。適用可否のご相談など、お気軽にお問合せください。

学習用データの蓄積・分析支援

学習用データの蓄積・分析支援
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  • 蓄積データに関する分析 / 提案
  • データ蓄積が不足している場合、CAE等を活用した機械学習用データの生成など

特徴量、評価量の抽出支援

特徴量、評価量の抽出支援
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  • エンジニアリング知識を活かした探索的データ解析による、学習用データの特徴量と評価量の抽出に関する提案

機械学習モデルの構築支援

機械学習モデルの構築支援
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  • エンジニアリング知識を活かした適用モデルの提案
  • モデルの予測精度向上のための提案

機械学習モデルの活用支援

機械学習モデルの活用支援
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  • 構築した機械学習モデルを業務活用するための、データ管理やシステム化の検討・提案

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(デベロップメントエンジニアリングサービス部 課長SE 荒木・前田)

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