いまだ新型コロナウイルス感染症は収束の兆しが見えませんが、徐々にポストコロナを前提とした環境へと移行しつつあります。2020年以降、製造業を取り巻く環境も大きく変化してきています。「ものづくり白書2022」[1]では、製造業の状況を以下にように述べています。
(生産動向)
2020→2021では回復基調だったが、その後の半導体不足や原材料の高騰等により悪化。
(設備投資)
2020→2021では大きく落ち込んだが、やや回復傾向。今後3年では増加見込み。
このような中、製造業におけるデジタル技術の活用にも、以下のような変化が見えてきています。
特に企業の競争力の向上に向けては、上記を踏まえたDXの取組み(特にデータ活用)の必要性を「DXによる競争力向上」[2]で述べています。
今回は、この“DXによる競争力向上”のために重要な先端デジタル技術である、データサイエンス技術について、弊社での取組み状況をご紹介します。
データサイエンス技術は、一昨年および昨年のDIPROニュース[3][4]でもご紹介しましたが、近年、製品開発の各所に広がりを見せており、データ駆動型の製品開発の中核技術として活用されている技術分野です。本項では、この技術の概要を解説します。
データサイエンスとは、概念的には下図のように表現できます。平易な言葉で記述すると、「データから法則を見つけて、その法則を利用する」ための技術です。
データサイエンスには様々な理論や技術が含まれますが、中心的な要素技術として、データのモデル化のために機械学習を駆使しています。
データサイエンス技術は、様々な種類のデータを扱います。扱うデータの種類により、そのデータに適した評価技術を使い分けることになりますが、概略としては下図のように、“情報の抽出”、“データのモデル化”、“処理の効率化”に大きな効果を発揮します。
引き続き、これらの技術を使うことの重要性について考えてみたいと思います。
設計開発プロセスの過程でデータは生成されていますが、ドキュメント(報告書類等)、図面、CADデータ、実験データ、解析データといった種類の異なる非構造化データが多数を占めています。情報が構造化(整理された)データと異なり、必要な情報へ容易にアクセスするための整理・管理が十分でないことが、データの蓄積や活用が進まない一つの理由ではないかと思います。
一方で、開発過程で生まれたデータには、様々な情報が含まれています。ベテランに限らず、開発に携わった技術者の知見(暗黙知)やノウハウが埋もれています。例えば、蓄積したデータの種類ごとに、下記のような活用方法が考えられます。
このように蓄積したデータは、開発の効率化や製品価値の向上へ繋がる可能性を秘めています。
製品の付加価値を生み出すための、モノづくりの製品開発プロセス革新(以下、モノづくりDX)実現のためには、開発過程で生まれたデータを蓄積・活用することが重要となってきています。たとえば、蓄積データに含まれる、知見やノウハウを可視化した技術情報にアクセスするためには、以下の過程が必要です。
特に、モノづくりDXでは、②③の過程で、データ管理の目標設定 / ルール設定、業務プロセスの標準化、データベースのデザイン、開発プロセスにおける蓄積データ活用のユースケース定義が重要となってきます。次項では、技術者が蓄積データから価値を生み出すための活用例をご紹介します。
弊社で取り組んでいるデータサイエンス技術は、主に「サロゲートモデル構築技術」と「データマイニング技術」です。これらの技術を駆使しながら、製品開発プロセスの中で生成・蓄積されるデータの活用イメージ例が下図になります。
以降は、蓄積データの具体的な活用例を見ていきます。
最初の活用例は、製品設計工程の設計DRでの蓄積データ(文書情報)の活用です。
この例では、現行プロセスにおける “解決したい課題” は以下の2点になります。
上記の課題に対して、データマイニング技術を活用した“技術知見の抽出”と、抽出により得られた機械学習モデル(以下AIモデル)を活用して、下図のようなプロセスへと変えることが可能です。
また、プロセス全体への効果としては、納期までの期間短縮(効率化)と短縮した期間を使って、魅力品質の作りこみ(高品質化)が期待されます。
2つ目の活用例は、蓄積データ(文書情報・数値情報)から技術知見を抽出し、製品の機能・性能評価に関する効率化と信頼性向上への活用です。
下図は、製品開発における機能・性能評価における統計モデル(サロゲートモデル)とCAEの各設計段階での活用例です。いずれのモデルも、最終的には設計制約の中での機能・性能の最適解を探すためのツールになります。
特に設計初期の概念設計段階では、多くの設計パラメータによる検討結果から設計候補案を絞り込むことになると思います。サロゲートモデルは検討効率化のための強力なツールとなりますが、サロゲートモデルの信頼性や妥当性については蓄積データに依存するため、技術知見を抽出し、信頼性評価に活用できることが重要になります。
下図は、蓄積データ(数値系データ)からサロゲートモデルを構築する際に、製品開発の技術知見(文書系データ)をモデル構築へ利用した例です。
蓄積データ(数値系データ)からモデルを高精度で構築するためには、特徴量の適切な選択が重要になります。この選択の指針となる技術知見(文書系データ)が予め得られていることが重要であり、モデルの妥当性や信頼性を向上する要素となります。また結果として、蓄積データを活用することで、概念設計段階での機能・性能検の検討品質向上・効率化への寄与が期待されます。
以上、データサイエンス技術の活用例等を解説してきましたが、最後に、“モノづくり”でデータサイエンス技術を活用するために重要なこと、および弊社がご支援している内容をご紹介します。
“モノづくり”の領域でデータサイエンスを活用するためには、当然ですがデータサイエンス技術に精通している必要があります。たとえば、データを処理・加工するための“ツールの使いこなし”、データからどのようなモデル化が適切かを判断する“分析技術”、分析結果から機械学習などのモデル化するための“モデル化技術”が挙げられます。
一方で、“モノづくり”へデータサイエンスを活用するために、データサイエンス技術に精通しているだけでは不足していると考えます。それは、開発現場で蓄積しているデータは、“モノづくり”の情報を含んでおり、様々な製品に関する物理的な条件や制約、開発や製造の意図などが隠れた情報(暗黙知)として含まれているため、これらの暗黙知を形式知化するためのエンジニアリング的な知見や技術が必要となります。弊社では、これら両方の技術と知見をもったエンジニアがデータサイエンス技術活用をご支援しています。
今回ご紹介した事例を自社に適用したい等のご相談も含めて、以下のようなデータサイエンス活用をご支援しています。適用可否のご相談など、お気軽にお問合せください。
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