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DIPROニュース

2022

2月号

2022.02.10

“モノづくり”へのデータサイエンス活用の取り組み
~データマイニング技術による設計開発知見の利活用~

新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大は、2020 年以降の国内経済に大きな影響を及ぼしました。製造業を取り巻く環境も大きく変化し、経営判断として投資を見送る傾向もある中、一方では、ニューノーマルにおいて、生き残りと競争力強化を模索する動きも見られます。経済産業省の「ものづくり白書2020」[1]では、ニューノーマルにおける製造業の課題として、以下を挙げていました。

  1. 企業変革力強化と、そのためのDX推進の必要性
  2. 企業における設計・開発力強化の重要性
  3. DX推進のための人材育成の必要性

その後、「ものづくり白書2021」[2]では、上記の課題を克服し、製造業のニューノーマルを実現するために、レジリエンス(サプライチェーンの強靭化)/ グリーン(カーボンニュートラルへの対応)/ デジタル(DXの取組深化)を提起しています。この中でも特に、急激な環境変化の中での事業継続と競争力強化の源泉となるDXへの取組みは重要と位置付け、デジタル技術(IoT、AI、データサイエンスなど)の効率的活用とデータの有効活用が重要と述べられています。今回は、この“DXの取組深化”のために重要な先端デジタル技術である、データサイエンスについての弊社での取組み状況をご紹介いたします。

[1]
2020年版ものづくり白書(METI / 経済産業省)
[2]
2021年版ものづくり白書(METI / 経済産業省)

データサイエンスとは何か?

データサイエンス技術は、昨年のDIPROニュース[3]でもご紹介しましたが、近年、製品開発の各所に広がりを見せており、データ駆動型の製品開発の中核技術として活用が始まっている技術分野です。本項では、この技術の概要と活用例を解説します。

[3]
“モノづくり”へのデータサイエンス活用の取り組み [DIPROニュース2021年1月号]

データサイエンスで出来ること

データサイエンスとは、概念的には下図のように表現できます。平易な言葉で記述すると、「データから法則を見つけて、その法則を利用する」ための技術になります。

①データを集める データを集め、“機械学習”できる様に整理・加工する ②法則を見つける “機械学習”は、データから法則を見つけ、結果を予測する ③法則を利用する

データサイエンスには様々な理論や技術が含まれますが、中心的な要素技術として、データのモデル化のために機械学習を駆使しています。

どんな事に役立つのか?

データサイエンス技術は、様々な種類のデータを扱います。扱うデータの種類により、そのデータに適した評価技術を使い分けることになりますが、概略としては下図のように、“情報の抽出”、“データのモデル化”、“処理の効率化”に大きな効果を発揮します。

データから構築した予測モデルを使い、検討処理や検討プロセスを大幅に短縮する

データサイエンス技術の活用例

弊社で取り組んでいるデータサイエンス技術は、主に以下の二つに分類されます。1つ目は、昨年のDIPROニュース[3]でもご紹介した「サロゲートモデル構築技術」になります。2つ目が、「データマイニング技術」になります。本項では、データマイニング技術を活用した3つの活用例についてご紹介します。

サロゲートモデル構築技術 データマイニング技術
[3]
“モノづくり”へのデータサイエンス活用の取り組み [DIPROニュース2021年1月号]

活用例1:プレス加工における“技術知見の活用”

最初の活用例は、プレス加工における“技術知見の活用”になります。

設計開発業務の中では、下図のように、過去から蓄積・保存された業務文書や技術文書が、数多く存在すると思います。これらのデータをデータマイニング技術により文書情報として解析することで、文書を構成する特徴的なキーワードを抽出し、かつ情報の関係性を可視化することが可能です。可視化した情報(ノウハウとして抽出された情報と捉えることができます)から“新たな気づき”を得ることができ、開発業務への有効活用が期待されます。

蓄積・保存された業務文書や技術資料→業務文書や技術資料を解析→文書を構成する特徴的なキーワードと共に情報の関係性を可視化

例えば、下図のようなプレス加工における金型設計のプロセスを考えます。上段のプロセスは、“試作のみ”による検討工程です。近年は、開発のコスト削減や期間短縮を目的に、下段のように“シミュレーション”を使った検討が普及してきていると思います。

「試作のみ」による検討プロセス 「シミュレーション」を使った検討プロセス

“シミュレーション”を使う主な意義は、計算機上での仮想的な検討により、実機を作らずに、様々な条件検討を繰り返し実施できることにあります。しかし、検討結果の精度や信頼性を確保するには、シミュレーションモデルの信頼性を事前に確保しておく必要があります。

一つの例として、金型設計で使われるプレス加工の3D解析は、左下図のように成形不良の予測を目的としていますが、右下図のような事前検討が必要になります。

目的:スプリングバック量などの成形不良を予測

この事前検討が、シミュレーションモデルの信頼性確保には重要ですが、実機である加工工程での情報が、計算モデル検討には必要不可欠になります。自社のプレス加工工程の情報が体系的に整理されていれば、その情報を活用すれば良いのですが、実際の現場では十分に体系化されていない場合も想定されます。

下図は、プレス加工に関する複数の公開文献情報から、プレス加工に影響を与えるキーワードを抽出して、その関係性をグラフネットワークとして可視化したものです。図の中で、ピンク色の枠で囲んだキーワードは、プレス加工に影響を与え、何らかの影響因子となりえる情報と捉えることができます。

上記は、一般的な公開文献情報でしたが、自社内に蓄積している技術文書に対して、同様の“技術知見”の可視化・体系化を実施することで、下図のようにシミュレーションモデルの評価精度に寄与する要因抽出や、抽出した要因を考慮したモデル構築が可能となります。また、その結果としてプレス加工評価精度の向上が期待されます。

また、シミュレーションモデルの信頼性向上の結果として、検討プロセスの期間短縮やコスト削減への寄与が期待されます。

活用例2:ベテランノウハウの“見える化”

2つ目の活用例は、ベテランのノウハウの“見える化”になります。

過去の設計開発上で残された技術情報(ノウハウ)は、報告書などの技術文書として蓄積されています。この文書を作成しているのは、一般的にはベテランと呼ばれる設計経験者が残している場合が多いと思いますが、必ずしも品質情報として体系化されている訳ではありません。

これらの情報を既存の報告書やベテランが作成した品質情報文書から、データサイエンス技術により知識データとして体系化(構造化)することが可能です。知識として構造化したデータは、設計時の抜け漏れのない対策検討や設計レビューへ活用することで、設計品質向上への寄与が期待されます。

本事例については、弊社WEBページ[4]も併せてご参照ください。

[4]
デジタル化コンサルティングサービス:ベテランノウハウの“見える化”

活用例3:QFD品質表1 作成支援

最後の活用例は、“QFD品質表1”の作成支援になります。

QFDの意義は、以下のように考えられます。

  1. 開発設計に着手する前の段階で、重要な設計目標を実現する上での技術課題が見える化できる。
  2. 上流工程で課題に対する対策・方針を事前検討できるので、不具合の未然防止や、設計の手戻りを削減できる。
  3. 重要な品質特性のうち、互いに背反する特性を品質表上で見える化できる。また、技術的課題が明らかになる。

しかし、この品質表1を作成するのは、製品開発の経験や知見が必要となるため容易ではありません。この課題を回避するため、過去の製品の品質表1の情報から、データサイエンス技術を活用することで、新規製品の要求特性に対応する品質特性を半自動的に作成することが可能です。

製品開発の知的資産を活用することで、抜けもれなくQFD活動を実施することが可能になり、製品開発上流での品質向上に寄与することが期待されます。

本事例についても、弊社WEBページ[5]も併せてご参照ください。

[5]
デジタル化コンサルティングサービス:QFD品質表1

データサイエンス技術活用のご支援について

以上、データサイエンス技術の活用例等を解説してきましたが、最後に、“モノづくり”でデータサイエンス技術を活用するために重要なこと、および弊社がご支援している内容をご紹介したいと思います。

データサイエンス技術の活用で重要なこと

“モノづくり”の領域でデータサイエンスを活用するためには、当然ですがデータサイエンス技術に精通している必要があります。たとえば、データを処理・加工するための“ツールの使いこなし”、データからどのようなモデル化が適切かを判断する“分析技術”、分析結果から機械学習などのモデル化するための“モデル化技術”が挙げられます。

エンジニアリング業務知見 データサイエンス技術開発 ツールの使いこなし 分析・評価技術 モデル化技術

一方で、“モノづくり”へデータサイエンスを活用するために、データサイエンス技術に精通しているだけでは不足していると考えています。それは、開発現場で蓄積しているデータは、“モノづくり”の情報を含んでいるため、様々な製品に関する物理的な条件や制約、開発や製造の意図などが隠れた情報(暗黙知)として含まれているため、これらの暗黙知を形式知化するためのエンジニアリング的な知見や技術が必要となります。弊社では、これら両方の技術と知見をもったエンジニアがデータサイエンス技術活用のご支援をいたします。

“モノづくり”へのデータサイエンス技術活用のためのご支援内容

弊社では、今回ご紹介した事例を自社に適用したい等のご相談も含めて、以下のようなデータサイエンス活用のご支援をしています。適用可否のご相談など、お気軽にお問合せください。

学習用データの蓄積・分析支援

学習用データの蓄積・分析支援
  • 蓄積データに関する分析 / 提案
  • データ蓄積が不足している場合、CAE等を活用した機械学習用データの生成など

特徴量、評価量の抽出支援

特徴量、評価量の抽出支援
  • エンジニアリング知識を活かした探索的データ解析による、学習用データの特徴量と評価量の抽出に関する提案

機械学習モデルの構築支援

機械学習モデルの構築支援
  • エンジニアリング知識を活かした適用モデルの提案
  • モデルの予測精度向上のための提案

機械学習モデルの活用支援

機械学習モデルの活用支援
  • 構築した機械学習モデルを業務活用するための、データ管理やシステム化の検討・提案

お問い合わせ先

製品・サービスに関するお問い合わせ
(デベロップメントエンジニアリングサービス部 部長SE 辻村)

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