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DIPROニュース

2021

1月号

2021.01.12

“モノづくり”へのデータサイエンス活用の取り組み

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大等の影響等から、製造業を取り巻く環境は、かつてないスピードと規模で変化しています。このような状況下で、DX(デジタルトランスフォーメーション)によるデジタル技術を活用した企業としての新たな価値創出の潮流など、“モノづくり”におけるIT活用の重要性は増してきています。経済産業省の「ものづくり白書2020」[1]では、以下を日本の製造業の課題として挙げています。

  1. 企業変革力強化と、そのためのDX推進の必要性
  2. 企業における設計・開発力強化の重要性
  3. DX推進のための人材育成の必要性

これらの課題に対して、例えば、設計・開発力の強化のためには、データの連携・蓄積および活用と、最新のデジタル化技術(IoT、AI、データサイエンスなど)を駆使することが重要と述べられています。[2]

今回は、開発力強化のために重要な、先端デジタル技術の一つである“データサイエンス”について、弊社での取り組み状況をご紹介いたします。

[1]
2020年版ものづくり白書(HTML版)(METI / 経済産業省)
[2]
2020年版ものづくり白書 ”設計力強化戦略”(METI / 経済産業省)

製品開発における技術動向

データ駆動型の製品開発への兆し

2012年3月29日、 アメリカ政府(オバマ政権)が、2億ドル以上の投資を前提に、「ビッグデータ研究開発イニシアティブ」[3]を始動しました。この計画は、急増するデジタルデータの活用を目的として、大量で複雑なデジタルデータから知識・ノウハウを抽出することにより、科学的発見、環境・生物医学研究、教育、国家安全保障を大きく変革するための戦略的な取り組みでした。

アメリカ政府により、活用に向けて、2億ドル以上の研究開発投資
(出典)総務省 情報通信審議会ICT基本戦略ボード資料より
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc121440.html

この計画開始以後、ビックデータを活用した取り組みとして、例えば材料開発の分野では、世界的に“マテリアルズ・インフォマティックス”による、データ駆動型の研究・開発が広がりを見せています。

マテリアルズ・インフォマティクスは、下図のように、膨大に蓄積されたデータから、データマイニングなどの情報科学(データサイエンス)を通じて新材料や代替材料を効率的に探索する取り組みです。これまでの材料探索は研究者の経験と鋭い直感に依存していましたが、物質特性をコンピュータ上で高精度に計算した材料データベースや人工知能などを活用するマテリアルズ・インフォマティクスによって、時間とコストを大幅に削減することを狙っています。

マテリアルズインフォマティクスの概念イメージ
(出典)文部科学省研究振興局
「高効率に革新的な物質・材料を探索・設計するためのマテリアルズ・インフォマティクスの推進」資料より
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/015-6/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/12/15/1354074_002.pdf

この技術の製造業における適用事例としては、富士通グループのセミナー[4]でも講演いただいた、横浜ゴム様の自動車用タイヤのゴム材料開発が代表的な事例[5]になるかと思います。

マテリアルズ・インフォマティクスは様々な技術を駆使していますが、蓄積したデータから複雑な情報を分類・抽出するための”データサイエンス”が中心的な要素技術となっています。

[3]
総務省|平成24年版 情報通信白書:ビッグデータの戦略的活用に向けた諸外国の取組
[4]
第36回 経営に貢献するCAEセミナー開催のご報告 | デジタルプロセス株式会社
[5]
ニュース|横浜ゴム、マテリアルズ・インフォマティクスによるゴム材料開発技術を確立

求人から見たデータサイエンスの動向

データサイエンス技術の動向を、別な視点で捉えてみます。以下のグラフは、データサイエンス技術を保有する”データサイエンティスト”と呼ばれる技術者に関する業種別求人比率を示したものです。2019年2月1日~2020年1月31日の期間で集計されたものですが、従来からビックデータ活用が進んでいた、マーケティング、金融、製薬、化学系の業種に混じって、同等の比率で機械・電機といった“モノづくり“業種での募集が上位に来ています。

データサイエンティストの募集業種
(出典)アスタミューゼ様 プレスリリースより[6]
[6]
60万件の求人票データから紐解く「データサイエンティスト」の実態

自動車技術におけるデータサイエンスの活用状況

技術動向の最後として、自動車の開発技術として、データサイエンスがどの技術分野で使われ始めているかを確認したいと思います。下図は、毎年開催される自動車技術会の秋季大会における論文投稿数を2016年[7]と2020年[8]で比較したグラフになります。論文プログラムのタイトルから機械学習等のデータサイエンス技術が含まれる投稿と、それ以外の投稿に分類して変化を見ています。当初は運転支援等に投稿が集中していましたが、現在では多くの技術領域に対してデータサイエンスの活用が進んできています。

[7]
2016年自動車技術会 秋季大会
[8]
2020年自動車技術会 秋季大会

データサイエンスとは何か?

前項で確認してきたように、データサイエンス技術が製品開発の各所に広がりを見せ始めていますが、本項では、この技術の概要と活用例を解説します。

データサイエンスで出来ること

データサイエンスとは、概念的には下図のように表現できます。平易な言葉で記述すると、「データから法則を見つけて、その法則を利用する」ための技術になります。

①データを集める②法則を見つける③法則を利用する

中心的な要素技術は、機械学習なりますが、特にデータから物理シミュレーションを代替えするための機械学習モデルを“代理モデル(サロゲートモデル)”と呼ぶ場合があります。

どんな事に役立つのか?

データサイエンス技術は、様々な種類のデータを扱います。扱うデータの種類により、そのデータに適した評価技術を使い分けることになりますが、概略としては下図のように、“情報の抽出“、”データのモデル化”“、“処理の効率化“に効果を発揮します。

活用例:検討工程の大幅な短縮

ここでは、データサイエンス技術を具体的な対象に活用した事例をご紹介します。下図の事例は、自動車のブレーキホースのレイアウト検討に関するものです。通常、ブレーキホースのレイアウト検討は対象車種に関して、タイヤの向きや、タイヤの上下の動きを考慮して多くの検討条件が必要になります。

従来の工程では、すべての検討ケースを3D CAD / 3D CAEを使った試行錯誤により実施するため、大量で詳細な形状検討が必要でした。しかし、データサイエンス技術の一つである機械学習モデルを活用することで、新しい工程では検討ケースの絞り込みを短時間で実施可能となります。その結果、数日レベルだったブレーキホースレイアウトの検討期間を数時間レベルにまで短縮することが可能となります。

弊社での取組み事例 ~自動車空気抵抗係数の機械学習による予測モデルの構築~

ここまでは、製品開発における技術動向およびデータサイエンス技術の概要を解説してきました。本項では、データサイエンスの要素技術である機械学習を、自動車の性能評価項目の一つである空気抵抗係数(CD)の予測に適用した弊社内での事例をご紹介します。

自動車の空気抵抗係数を予測するための課題

自動車の燃費性能の向上のためには、空力抵抗の低減が必要になります。しかし、自動車開発において空気抵抗を予測する方法は、風洞実験もしくはCFD(Computational Fluid Dynamics)が使われますが、これら方法での空力抵抗の予測には、以下のような課題があります。

  1. エクステリア形状の変化によりCDが変化しますが、車体形状別の評価条件毎に多数のデータを取得または計算する必要があります。
  2. 評価条件毎のデータ取得は、風洞試験、CFDともに、多額の費用と時間が必要になります。

これらの課題を解決し、効率的なCDの予測のために、機械学習モデルの適用に取り組んでいます。

課題解決のための方策:機械学習モデルの活用

CDの予測は、エクステリア形状を使った3次元のCFDによる評価が一般的ですが、今回は計算済みのCFD結果データを活用して機械学習モデルを構築しています。

空気抵抗係数を予測するための機械学習モデルの構築は、以下のような工程になります。

まず①のようにエクステリア形状を準備します。同時に②の評価量として、①と対応関係のあるCFD結果データを準備します。①+②のデータから、③で機械学習モデルに学習させます。十分な学習を終えると、エクステリア形状と評価条件を入力することで、CDを計算する機械学習モデルが完成します。

機械学習モデルの効果:大幅な処理時間の短縮

学習済みの機械学習モデルが完成すると、この学習済みモデルをエクステリア形状の違いによりCDの検討に活用します。従来は、下図(B)の工程になりますが、この場合は多数の検討ケースをCFDで計算することになります。一般的にCFDは高性能のコンピュータを必要とするため、最適なCDとなるエクステリア形状を捜し出すためには、多額の計算コストや検討期間の長さが課題となってしまいます。一方、機械学習モデルを使った(A)の工程では、同じケース数を検討する場合でも、計算コストが少ないため、結果的に検討期間を短くすることができます。

検討内容やCFDモデルによっても異なりますが、弊社内での取り組みでは、(B)工程が数週間レベルの検討期間を必要とするのに対して、機械学習を使った(A)工程は、数日レベルの期間で検討が可能となります。

①エクステリア形状の初期検討②形状に対するCDの算出③CDの影響を確認しながら形状を最適化

データサイエンス活用のご支援について

以上、データサイエンスの活用例等を解説してきましたが、最後に、”モノづくり”でデータサイエンスを活用するために重要なこと、および弊社がご支援している内容をご紹介したいと思います。

データサイエンス活用で重要なこと

”モノづくり”の領域でデータサイエンスを活用するためには、当然ですがデータサイエンス技術に精通している必要があります。たとえば、データを処理・加工するための”ツールの使いこなし”、データからどのようなモデル化が適切かを判断する”分析技術”、分析結果から機械学習などのモデル化するための”モデル化技術”が挙げられます。

エンジニアリング業務知見 データサイエンス技術開発 ツール使いこなし 分析技術 モデル化技術

一方で、”モノづくり”へデータサイエンスを活用するために、データサイエンス技術に精通しているだけでは不足していると考えています。それは、開発現場で蓄積しているデータは、”モノづくり”の情報を含んでいるため、様々な製品に関する物理的な条件や制約、開発や製造の意図などが隠れた情報(暗黙知)として含まれているため、これらの暗黙知を形式知化するためのエンジニアリング的な知見や技術が必要となります。弊社では、これら両方の技術と知見をもったエンジニアがデータサイエンス活用のご支援をさせていただいています。

“モノづくり”へのデータサイエンス活用のためのご支援内容

弊社では、今回ご紹介した事例を自社に適用したい等のご相談も含めて、以下のようなデータサイエンス活用のご支援をしております。適用可否のご相談など、お気軽にお問合せください。

学習用データの蓄積・分析支援

学習用データの蓄積・分析支援
  • 蓄積データに関する分析 / 提案
  • データ蓄積が不足している場合、CAE等を活用した機械学習用データの生成など

特徴量、評価量の抽出支援

特徴量、評価量の抽出支援
  • エンジニアリング知識を活かした探索的データ解析による、学習用データの特徴量と評価量の抽出に関する提案

機械学習モデルの構築支援

機械学習モデルの構築支援
  • エンジニアリング知識を活かした適用モデルの提案
  • モデルの予測精度向上のための提案

機械学習モデルの活用支援

機械学習モデルの活用支援
  • 構築した機械学習モデルを業務活用するための、データ管理やシステム化の検討・提案

お問い合わせ先

製品・サービスに関するお問い合わせ
(メカニカルエンジニアリングサービス部 部長SE 辻村)

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