デンタルビジネス室では、歯の治療に使用する被せ物(補綴物)を制作するためのCAD / CAMシステムを開発、提供しています。今回は開発中の歯冠自動設計機能を紹介いたします。歯冠とは、歯の歯茎から上に見えている部分、または歯全体を覆う補綴物のことを言います。歯冠の形は長い歴史における食文化の違いによって大きく異なり、草食であった日本人を含むアジア人は肉食であった欧米人と比べて山が丸く、谷が浅い傾向にあります。また前歯の裏側が平らでなくシャベル型になっているのもアジア人の特徴です(仮にこの違いを大局的形状差異と呼びます)。当然ですが、同じ傾向を持つアジア人でも人それぞれに歯の形は異なります(仮にこの違いを個人的形状差異と呼びます)。更には歯の形だけでなく並びも人それぞれに異なるため、歯冠形状を自動で設計することはとても難しく、これまでにもいくつか自動設計を行うソフトが出ていますが、歯科技工士を満足させるものは未だないというのが現状です。
上記のように全く同じ形の歯は存在しませんが、歯の種類(機能的な要件)によって基本的な形は共通しています。歯の数は成人の場合、28~32本、上 / 下・左 / 右に分けるとそれぞれ7~8本です。8本は下図のような名前で呼ばれ、求められる機能によって基本的な形が決まっています。
歯科用CAD / CAMシステムで補綴物を制作する一般的なフローは以下となります。
開発中の歯冠自動設計機能は、上記フローの2)設計を自動化するものです。歯科用3Dスキャナにて取得した①治療するために削られた歯(支台歯)、②治療する歯の隣の歯(隣在歯)、③上下反対側の歯(対合歯)の形状データと、④歯冠形状データベースを入力して、支台歯に被せる歯冠形状を以下のステップにて自動設計します。
歯冠形状データベースから隣在歯の形が最も良く似たものを選びます。
・・・大局的形状差異を吸収します。
支台歯の向きに、データベースから選んだ歯冠形状データの向きを合わせます。
・・・支台歯の向きに込められている歯科医師の意図(治療後の歯を向かせたい方向)に合わせます。
隣在歯の並びを見て隣在歯の間にきれいに納まるように歯冠形状データを配置します。
・・・個々人の歯並びの違いを吸収します。
隣在歯の機能的な特徴部(山、谷)に合わせて、歯冠形状データの機能的な特徴部を変形します。
・・・個人的形状差異を吸収します。
対合歯の形を見て山の形を調整します。
・・・噛み合うように調整します。
ステップ3~5に、歯科技工士からお聞きした形状を設計する際のノウハウを組み込んでいます。
自動設計結果
近年の歯科技工業界は人材不足、長時間労働といった課題を抱えています。この歯冠自動設計機能が実用化されると、設計作業時間を短縮することができるとともに、新人技工士でもベテラン技工士に近い補綴物を製作することができるようになります。大手の歯科技工所や歯科技工専門学校の先生方にご協力いただき、その設計ノウハウをシステムに組み込むことで、ようやく実用レベルの歯冠形状を自動設計できるようになってきました。まずは今年度前半に、小臼歯と大臼歯を対象として商品化する計画で進めていますのでご期待ください。
今後も歯科技工士の役に立てるソフト、システムの開発に取り組んでまいります。
PICK UP