去る10月22日(木)にマレーシアにて開催されました「NADEC2009」についてご報告いたします。
(NADEC:National Automotive Digital Engineering Conference 2009)
弊社のマレーシア出身の若手社員が「母国と日本を結ぶ架け橋に」という想いから設立したDreamEDGE社を以前 ご紹介させていただきました。今年の3月、同社にマハティール元首相が来社された際、DreamEDGEの活動をますます促進するようご示唆をいただきました(DIPROニュース 2009年4月号)。このことが同社を設立準備当初から支えてきた弊社にとっても大きな原動力となり、この度、マレーシアの製造業(特に自動車産業)振興を目的として日本の自動車産業のデジタルエンジニアリング技術を紹介するカンファレンス「NADEC2009」の開催が実現しました。
会場は、クアラルンプール郊外の行政新首都:プトラジャヤ地区にある「Auditorium Cempaka Sari」というイベントホールです。主催は、マレーシアの科学技術省(MOSTI:Ministry of Scinence,Technology and Innovation)の外郭団体であるMIGHT社、DreamEDGE社と弊社の3社、そしてMOSTIと通商産業省(MITI:Ministry of International Trade and Industry)の2つの省が後援する、まさに国を挙げての一大イベントとなりました。
また、エンジニアリング系IT分野の大規模なイベントは同国として初の試みであり、さらには日本の自動車業界での最新の活用事例が紹介されるということもあり、自動車、二輪業界はもとより、大学などの教育機関を中心に約350名という大変多くのお客様にご来場いただきました。
以下、当日のアジェンダ順に各講演をご紹介させていただきます。
山本様からは、日産自動車様のプロセス革新プロジェクトである“V-3Pとはどのようなものか”といった概要から始まり、開発プロセス進化の歴史と具体的な成果までをご紹介いただきました。
特に、BOM/PDM/CADに代表される情報システムの革新とその重要性、結果としての開発品質の向上、開発費の削減と期間短縮への寄与について実例を踏まえてお話いただきました。さらには、現在に留まることなく進歩を続けるデジタルエンジニアリングとグローバル展開など、将来への思いも熱く語っていただきました。
講演後の質疑の時間には、開発期間の大幅な短縮を達成したことへの驚きとともに、その根拠たるイノベーションに関する質問や、サプライヤー様へのプロセス適用についての質問を数多くいただきました。日産自動車様の取り組みとその成果が、来場されたお客様にとって非常に大きなインパクトであったことを感じました。
日本の自動車業界は情報技術の発展とPLM適用技術により、車両開発における開発プロセスの革新や開発期間の短縮など先駆者としての役割を果たしてきました。講演では、この歴史的な取り組みについて弊社の間瀬が当分野に長年携ってきた知見とV-CALS(1990年代後半、通産省により実施されたプロジェクトの一つ)を議長として運営してきた経験を交えてご紹いたしました。最後に、「21世紀にはアジアがものづくり技術の中心になるべきである。そのための方向性として、私たち自身がアジアの技術や環境、歴史に基づく強みを活かし、かつ欧米の優れた点も反映したグローバルに通用するソフトウェアを創り出さねばならない」という提案をもって講演を結びました。
講演後の質疑では、「日本のバーチャル化の歴史の中で2次元から3次元への障壁をどのように乗り越えたのか?」といったご質問や、「製品評価でのデジタルエンジニアリング活用方法について聞かせてほしい」といったご意見をいただきました。現地のお客様が、ものづくりのための有効な情報や確かな経験に基づいたノウハウを必要とされていることを痛感いたしました。
グローバル総合自動車部品メーカーであるカルソニックカンセイ様では、開発の効率化や品質向上の要請に応えるために、開発の初期段階から徹底的にものづくりを考慮した設計を指向されています。ご講演では、具体的な事例として内装樹脂部品開発でのデジタルエンジニアリングの取り組みや、CAD/CAEを活用した成果をご紹介いただきました。
特に、福本様のご専門であるCAEを活用した最先端の金型設計手法に関しては、多くの写真や画面ハードコピーを用いてご説明いただき、非常にリアルで説得力のある内容でした。また、講演の冒頭でマレーシアの関連会社で製造されている部品をご紹介いただくなどのご配慮をいただいたお陰で、お客様からは「親近感がもてました」とのご感想もいただきました。
講演後の質疑では、「このような新しいプロセスを実現するのに必要なスキルは何ですか?」といった自らの課題として捉えたご質問もいただき、ご自身の実体験に基づくご講演が現地のお客様にとっての大きな関心事であり、有益な内容であったことがうかがい知れました。
近藤様には、モータリゼーションの成長とともに発展した日本のCAD/CAMについて、その歴史的考察を踏まえてご講演いただきました。デジタルエンジニアリングを活用したデザイン業務から設計業務、さらには生産技術、製造技術という一連の流れについて車体用金型を中心にご説明いただいた後、自ら日産自動車様のシステム開発に携ってこられたご経験から、課題を克服してきた技術の紹介など貴重なお話をしていただきました。
最後に、豊田喜一郎氏の「技術は金で買えない。個別の技術ですぐれたモノは海外から導入してもいいが、大きな技術の体系、産業としてのシステムは、自前で組み上げないと決して定着しない」という言葉の引用と「マレーシアでのデジタルエンジニアリング活用による産業発展を祈念します」というご自身の言葉で締めくくっていただきました。
近藤様は大学で教鞭をとられており、40余年に渡ってCAD/CAM技術へ取り組まれた実績を基に、説得力のあるお話を大変わかりやすくご講演いただきました。
製品開発プロセスにおける革新はCAD/CAM/CAEによって進行していますが、今やCAEで予測するという「シミュレーション」が革新を担う主役の時代になってきています。自動車会社各社の競争力の源泉となっているCAE技術への取り組み事例と、その結果、自動車業界が他の業界よりも進んだ適用技術を身につけるに至った経緯を中心にご紹介させていただき、これにより自動車以外の製造業のお客様にも、このベストプラクティスを広くご活用いただくことにより効果を上げることが可能であることをお話しさせていただきました。
講演後の質疑では、CAEの効果の大きさに対する驚きのコメントとともに、環境評価問題への適用やCAEへの投資規模に関するご質問などをいただき、CAE技術が実効性の高いソリューションであることをご理解いただけたことを実感しました。
会場入口に程近い場所では、製品のデモンストレーションやソリューションサービスに関する展示を行いました。製品デモンストレーションを織り交ぜながら「NX」、「Teamcenter」、「ICAD/SX」、「ICAD/SX 金型」、「VridgeR」、「CAEソリューション」、「データ交換サービス」、「CAMソリューション」などをご紹介いたしました。
マレーシアではこれまで、当分野のソフトウェア製品や各種ソリューションが一堂に展示される機会もなかったためか、ここでも熱心なご質問を多数いただきました。中には、「ぜひ、詳細を説明に来てほしい」などのご依頼もあり、お客様の関心の高さを肌で感じさせられました。
ご参加いただいたお客様のアンケートでは、
といったご講演内容に関する高い評価が多数寄せられたことから、ご参加いただいた方々にとって有意義なカンファレンスになったのではないかと感じています。同時に、今回のカンファレンスが今後のマレーシアのデジタルエンジニアリング促進の第一歩になったことを実感いたしました。
弊社としても、海外でのこのような大規模なカンファレンスは初めての経験であり、進め方や準備は全くの手探り状態でしたが、何とか成功裏に終えることができました。
マハティール元首相の「マレーシアの産業育成のために日本の自動車業界からの支援を!」というお気持ちからスタートした本セミナーは、マレーシアの科学技術省のほか現地関係者の期待も高く、実現まで細心の注意と努力を傾注して進めて参りました。成功裏に終えたこと、また現地のご期待に応えられたことをとてもうれしく思っています。ご講演いただきました皆様、現地主催者および関係者皆様の努力に感謝いたします。
今後は、このカンファレンスを通じて得た経験を、マレーシアのお客様だけでなく日本企業の海外拠点、関係会社様へのご支援のお役に立てたいと考えております。
(第一技術サービス部 菊地 純子)
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