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DIPROニュース

2020

9月号

2020.09.10

3Dデータを活用したデジタル化時代の設計管理(第二回)

その2:設計管理視点でも注目すべき課題と事例紹介

前号からの続き

日本の製造業は、デジタルトランスフォーメーションによる将来に向けた革新の潮流や、新型コロナの影響による働き方改革の急激な展開など、今迄にない業務の変化に直面しています。ものづくり白書2020によると、時代の大きな変化に対応する企業は、ビジネスモデルの変革やデジタル人材を重視しており、産業界は3Dデータを軸にした設計手法の革新、そして設計検討段階へのフロントローディングによる業務改革への施策に注力していることに触れています。

これを受けて、前月号より最近の3Dデータを活用したデジタル化を推進する上で、弊社が経験した事例を元に「管理の視点」での考察をご紹介しています。

今月号では、ご相談を頂くことの多い「部品番号」、「図面」、そして「フロントローディングを支える早期部品表の活用」について触れさせていただきます。

部品番号

業種や企業によって部番、品番や製番など様々な呼び方がありますが、ここでは「部品番号」という名称で記述します。

お客様から「部品番号の問題」というテーマで相談を受けることも頻繁にあります。その内容は、企業の歴史的変遷や採番思想を維持すると新ビジネスに対応し難い、部品番号採番の枯渇が発生するなど様々で、部品番号の桁数や採番方法の変更は企業の基幹ルールであり影響範囲も広く、時に深刻な課題となっています。主な事例は以下の通りです。

  1. 図面を主体にした紙文化による採番ルールでは現代の業務に適さなくなった
    ・製品主体の採番、台帳管理、製品適用検索、属性情報(図面に記載) 等
  2. 企業合併など歴史的背景により社内に様々な番号体系が併存する
    ・共通部品管理、新部品番号体系、システム化、既存番号の移行 等
  3. 3Dデータ活用での新たな部品番号体系を決める必要が出てきた
    ・BOMとPDMの構成違いの管理、形状番号の採番や改版管理 等
  4. 設計・生産・調達の海外現地化により部品の仕様管理や品質管理が難しくなった
    ・グローバルな採番ルール、サプライヤー違い、生産工場違い、アライアンス・協業 等
  5. 部品番号でモノを特定出来なくなってきた
    ・設計の機能保証、生産の工程管理、検査の受入れ管理、サービス履歴管理 等
  6. 部品番号の意味あり体系により採番枠の枯渇が発生しそう
    ・識別コードや番号桁数の制限による枯渇、意味あり体系、意味なし体系 等
  7. 製品仕様の多様化、教育が対応できず若手技術者への伝承が出来ない
    ・部門や事業部による個別ルール運用、採番基準の更新遅れ、不徹底 等

この中から最近の話題をいくつかご紹介します。

部品番号体系は、意味ありの番号体系と意味なしの連番体系のどちらが良いのでしょう。

ボルト・ナット・クリップなどの締結部品やハーネスなど規格部品では、品名、材料、加工方法、熱処理、寸法など採番体系が決められているのが一般的ですが、自動車や機械組立部品の多くは意味あり番号体系を採用し、部品番号を見れば部品が使用される機能、製品、材料、寸法などの概略が理解できるので、設計、生産、サービスなどの現場では作業効率が上がると言われています。その反面、採番体系の各項目に設定された採番枠を使いきれず多くの空き番が発生し易いこと、新項目を追加したい場合にはシステムへの影響が大きく難しい等の弊害も発生します。主な体系の項目パターンは次の通りです。<図4>

部品番号の意味あり採番体系は業界により特徴があり項目パターンも多岐にわたる
<図4>意味あり部品番号体系の事例と特徴
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日本の殆どの自動車メーカのほか機械製品メーカ、自動車部品メーカなど採用しており、代表的な採番ルールといえます。

一方、意味なし連番体系は最初の1~2桁の区分コードの下に、新しい部品を発生順に連番で採番する方法です。<図5>

部品番号の意味あり採番体系は業界により特徴があり項目パターンも多岐にわたる
<図5>意味なし部品番号体系の事例と特徴
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この方法は自動車業界では欧米を中心にした企業に多く見られます。日本では一部の自動車メーカや電気製品メーカ、機械装置メーカなどに多く採用されています。

この採番の特徴は、新設部品番号の発生順に順次採番されるので空き番が発生せず効率的な運用ができます。その反面、部品番号からは機能や適用製品などが全く分からないので、常に製品適用情報や属性情報を検索する必要があります。現在はITインフラも整い、現場でタブレットPCが日常的に使われるようになっており、そうであれば意味なし番号体系でも、製品適用や属性検索の検索や部品表での構成機能も容易に検索することができ問題は解消されます。

設計管理の視点で考えると、部品番号は部品をコードで表したもので、その運用は各企業が扱う製品によって管理方法や利便性を考慮しつつ長い歴史の中で最適化したものだと思います。従って多くの場合、部品番号体系の変更はシステム面でも業務運用面でも大きなリスクを伴います。一方で意味あり番号体系も意味なし連番体系も、議論を進めていくと採番方法の良し悪しではないことが分かります。設計部門が設定した番号に対して、生産部門では工程検討、サービス部門では供給検討などにより、後からの分類や識別追加があります。また、設計変更では版数(リビジョン)とセットで運用するため、部品を表すコードでありながらそもそも部品番号だけでは表せない事例も多々あります。つまり、意味あり体系か意味なし連番体系かはあまり重要ではなく、企業や部品特性に合わせて決定し、原価や品質、製造、供給、サービスなどの一連の活動において「部品番号で部品(モノ)を特定できる」仕組みで業務運用できているかどうかを重要視すべきと考えます。

図面

お客様の関心が高いのは、3Dデータ化を進める中で従来からの2D図面を維持すべきか、3D単独図面化に進むべきかの課題です。ある自動車メーカでは早くから新規に作成する図面からは3D単独図面のみとしています。これも最初から3D単独図面を目指して切り替える計画で始めたのではなく、車体部品のCAD / CAM推進を進めながら2D図面の簡略化など約30年掛けて3D単独図面化の今日に至ったものです。そこには精度の高い3Dデータで部品を定義することで、部品や車を試作せずにデジタルで検討・確認を実施できることを目指し、同時に製作や検査の自動化へと発展させ、標準化した3Dデータ定義で3D図面へと移行してきました。

多品一葉図面の例
<図6>多品一葉図面の例
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2D図面を移行する上で議論になる事例を紹介します。<図6>

ひとつは3D単独図面化では一品一葉図が一般的になることで従来の2D図面にあった多品一葉図の形態での優位点をどう継承するかです。
多品一葉図では図示された基本形状を元に寸法・材料・色の違い、穴の有り無しなど複数部品を表形式で仕様差を理解し易く記述しています。

多品一葉図とは、新規の部品検討において「先ずは図中の仕様差表から既存部品の仕様を確認し、どうしても使えない時には止む無く新設する」という部品新設抑制のための設計手順そのものとまで言われてきました。3D図面化により一品一葉図の原則を採る場合は、設計者が部品種類の増加を抑える手順やサポート機能としての代替策を考える必要があるかも知れません。

もう一つは設計者の長年の経験から2D図面に「何でも記述」が進んでいる傾向がみられます。本来は機能設計した図面ですが、計画検討段階の図面のように設計レビューや生産技術からの指摘事項、備忘録など体系化されないままに様々な記述もあります。また部品構成欄には、目標原価・質量、設計原価・質量の情報や適用製品、サービス有無なども書かれているため、図中の部品欄が設計部品表を兼ねている企業では、2D図面情報から生産部品表へのデータの落とし込みを行うと生産管理側での手間が掛かることもあります。

3Dデータを活用した業務運用では、2D / 3D図面における新たな定義の検討にあたり部品表(BOM)やCADデータ管理(PDM)との関係も整理し、図面情報の一部として部品表データを持ち続けるか、切り離して部品表情報としての活用拡大を図るかも重要な検討事項と考えます。

フロントローディングを支える早期部品表の活用

設計開発の現場は時代の変化とともに環境が大きく変化してきました。紙から電子情報へ、国内中心からグローバルビジネスへ、2D図面から3D-CADへと発展し、さらにメカニカル技術からソフトウェア技術の活用へと変革し、開発初期段階の検討密度は上がり続けています。<図7>

<図7>モノづくり環境の変化と部品表活用
<図7>モノづくり環境の変化と部品表活用
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ある自動車の例では、企画検討、基本・詳細設計、生産準備、量産、販売・サービスといった一連の流れの中で、開発初期から実施している原価見積もりや図面化作業が紙からデジタル情報へと置き換わりました。更に設計検討が検討用図面と試作車からCADによるデータ検討に換わる中で、検討段階での設計手戻りを無くすためには、「部品番号」による3D検討する部品の正確な特定を行う必要性が顕在化し、従来の生産指示が目的であった部品表を設計検討にも活用するプロセスへと変化させてきました。情報のデジタル化や3Dデータの活用により設計の質を向上させ製品開発全体の効率化を図るために、早期の部品表を軸に原価見積り、サプライヤー選定、CAD / BOM自動連携による検討フェーズ毎の最新情報の提供など、関係部署がプロセスと情報を互いに連携させ、CADや解析といったツールを最大限に活用すると同時に、結果をトレースできる仕組みを構築しています。

前月号でご紹介したものづくり白書2020にある設計検討のフロントローディングは、自動車業界でも全体の目指す方向は殆ど同じと言えますが、重要な節目での評価方法、設計手戻りの目標値設定、システム化の範囲・規模などは各企業によって違います。これは、各企業の歴史的背景や経営的な重点課題の相違によるものと考えられます。

こうした状況の中でも共通して言えることは、プロセス改革における主要なポイントは目標の明確化や定量的な目標値の設定をもって取り組むことです。繰り返しになりますがCAD設備の導入やシステム開発に要する費用は決して安価ではありません。これらの投資に見合う効果を実質的に刈り取るためには、何のためにシステム化するのか、何がどれだけ良くなるはずなのかが不明確な取り組みは避けるべきです。また適用範囲についても、目標値の設定によっては設計部門だけではなく全社或いはグローバルレベルで取り組むことで所期の目的に合った効果が得られる活動だといえます。

そしてプロセス改革をリードするトップマネジメントや強力なプロジェクトチームに加え、データ移行や業務運用ルールの設定、業務適用・定着、および状況可視化の役割を担う「設計管理」と呼ばれるような運用部署の設置も改革全体を推し進める上では重要だと考えます。

まとめ

部品番号や図面は、モノづくりや設計現場の「いろは」です。部品番号体系にせよ図面の部品欄や構成部品の記述にせよ、各企業の技術者が長年掛けて様々な失敗や経験を元により良い設計を行うために部品表や図面上に工夫して残してきたものです。正に個々の企業における技術ノウハウの蓄積であり財産でもあります。

一方で3Dデータの活用をはじめとした新たな設計の仕組みにおいては、それらの内容を時代に合った形へと大きく変化させていくのも必要な取り組みです。こうした流れの中で、なぜ今のやり方がこうなっているのかを理解し、その上で残すべきもの、形を変えて維持するものを判断していくことが重要だと考えます。

(第二ソリューション開発部 シニアコンサルタント 河野)

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