ものづくり業界においては、開発業務領域(以下、開発)、生産技術業務領域(以下、生技)のデジタル化が目覚ましいスピードで進んでいます。図面の3D化に始まり、CAD、CAM、CAEなど技術領域のデジタル化の流れは日々進化しており、ご存じの通り、VR技術、AI技術の実用化もすでに始まっています。
一方、ものづくりにおける重要な構成要素の一つである原価管理業務領域に目を向けてみると、そのデジタル化は、開発、生技のそれに追いついていないと言わざるを得ません。
原価管理業務領域のデジタル化の主な実施例としては、CADデータを用いた部品原価見積りの自動化をあげることができますが、これはPDMのオプション機能であり、開発、生技のデジタル化と同じレベルにあるとは言い難いと思います。
そこで、本稿より3回に渡り、なぜ、原価管理業務領域のデジタル化が開発、生技のそれに追いついていないのかの要因を分析し、原価管理業務領域デジタル化の方向性を提案していきたいと思います。
開発・生技領域と部品原価管理領域のデジタル化の歩みを時間軸で簡単に比較したものを以下に示します(図1)。
開発、生技のデジタル化は、2D図面の3D化に始まり、CAD、CAM、CAE、そして、それらの技術を駆使したDMU(Digital Mock Up)やMBD(Model Based Development)が主流となり、そして現在は、IoT技術、VR技術、AI技術などの実務への活用というフェーズに来ています。それに対して、部品原価管理は、前述のCADデータを用いた原価見積りの自動化 ⁄ 半自動化以降、DMUやMBDに匹敵するようなデジタル化された業務の進め方が現れていません。それはなぜでしょうか?
部品原価管理業務に対するデジタル化のニーズが低い訳ではないと思われますが、なぜ、それが開発、生技のように進まないのか、その主な理由を推測すると、以下のようになります。(表1)
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表1:部品原価管理業務に対するデジタル化が遅れている理由
上記の理由をもう少し詳しく分析してみます。
これらの理由の中で、日頃、弊社のお客様からよくご相談を受ける、4)『原価意識』に着目し、もう少し詳しく考察してみます。
なぜ、全社的な、あるいは、実務当事者の原価意識はそれほど高くないのか?
その理由の一つには、色々な意味で、原価は目に見えづらいものであることがあげられます。
それはQCDの視点から、Q ⁄ DとCを比較して考えると分かりやすいと思います。
Quality:品質不具合で部品が壊れれば、その壊れた状態を目で見ることができ、その担当者は感覚的にそれを直さなくてはいけない、という気持ちになります。
Delivery:部品が供給されておらず、工場の中の本来あるべき部品置き場にそれがないカラッポな状態が見えれば、やはり、その担当者は感覚的に部品を速やかに供給しなくてはならない、という気持ちになります。
Q、D、どちらの状態も目で見ることができるので、その担当者は必死になってその改善策を検討し、実行しようとしますし、それらの状態は周りの人々の目にも見えるので、その問題が解決されないとその商品を市場で売ることができないことは、関係者の共通の理解を得やすくなります。
それに対して、原価の場合はどうでしょうか。
原価を可視化できるのは、リストに表示されたその数値くらいで、これは単に数字を見ているだけです。それが1円でも1万円でも、関係者には数字としてしか認識されず、壊れた部品や空っぽの部品置き場に比較すると、目標原価を大きく超えている場合においても、そのネガティブなインパクトは、感覚的にはなかなか伝わりづらいのだと思います。
また、その原価がいくらであろうが、その部品の品質に問題がなく製品に組み付いていれば、その製品を市場で販売し、いくらかの利益を稼ぐことも可能ですので、高い原価であっても利益は稼げるという考え方に結び付きます。
よって、実務担当者の原価意識の向上、全社の原価意識の向上には、Q(品質)やD(調達・供給・物流)と同様に、原価を目に見える状態で提示し、原価高によるネガティブなインパクトを関係者に感覚的に理解してもらうことが有効な手段となると思われます。
それでは、原価を目に見える状態で提示すること、即ち、原価の見える化はどのように実現すればよいのでしょうか。その実現方法としては以下の2つのやり方があると思います。
上記の2つの方法をもう少し、詳しく考察します。
このように、原価状況を数値データだけではなく、様々な形・色をつかって表現することにより、原価を見える化し、常日頃から実務担当者に対してそれを開示すれば、その方々の原価意識の向上を図ることが可能となるはずです。
次回(7月号予定)は、原価企画活動のデジタル化について、その具体例を紹介いたします。
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