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DIPROニュース

2006

4月号

2006.04.10

サービスからホスピタリティへ ~より深い堀下げをめざして~

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日本の金融政策が5年ぶりに大きな転機を迎え、日銀が2001年3月から続けてきた量的緩和政策の解除を決めました。世界に例を見なかった異常な金融政策がやっと解除されたのはデフレ脱却が確実になったとの判断に基づいているとのことです。この件で象徴されるように、90年代はじめのバブル崩壊とその後のグローバル化の流れのなかで長く続いた不況も15年を経過し、最近になって様々な指標や社会・経済の動向で変化の兆しが現れてきました。後にバブル崩壊後の日本を振り返ったとき、今年度はターニングポイント(反転)の年であったと位置づけられる予感がしています。それではどのように反転するのでしょうか。これからは、様々な事象に対し、従来とは一線を画した"より深い掘り下げと洞察"が求められているように感じます。そういった変化の兆しをアトランダムに見てみようと思います。

近頃「国家の品格」という本が話題になっています。経済至上主義や競争原理の行き過ぎで国家が品格を無くしつつあるという趣旨(警鐘)のものです。確かに様々な面で思考や行動が軽薄になったり短絡的になったり、あるいはテレビに代表されるマスコミの影響もあってポピュリズム的な方向に世論が導かれて行く風潮が目立ち始めています。このような本が話題になるのは、最近の世相に対する反省に立ち、転じて私たち日本人にもっと深い思考や洞察が求められはじめたことの表われではないでしょうか。

日本は物づくり立国を標榜していますが年々第二次産業の比率は下がっています。第三次産業はサービス産業ともいわれ、社会・経済の発展に伴い概してその比率が高くなる傾向があります。例えばアメリカは76%、日本は64.5%、インド18.7%、中国13.3%、といった数字になっています(国際労働統計年鑑2002)。情報産業はマクロには製造業ですが、「サービス」という言葉を最もよく使う業種のひとつです。私自身、最初はサービスとかソリューションという言葉に抵抗感がありましたが、最近はすっかり慣れてしまいむしろ積極的に使っていることに気がつきます。その一方でなんとはない居心地の悪さを感じることもあります。

サービスという言葉はもともとは、奉仕、主人(神)に仕える、自分がされたいように相手に行う、といった意味からきています。「サービス産業」を英語にすると、“service industry”というかというと実はそうではなく“hospitality industry”が正しいようです。サービスという言葉を使うときの居心地の悪さは、その言葉の本来の意味から感じるのかもしれません。この言葉は、プロダクトアウト即ち作り側の論理を優先するやり方を反省し、お客様やユーザーの立場を基点としたビジネスに変えようとの姿勢を表すために用いられるようになりました。

しかしマインドとしてのサービスを強調するあまり、プロダクトなしでもサービスさえあればよいといった風潮に陥る危険性があります。さらに単にお客様に対して奉仕するといった主従関係のみが強くなり、今期待されている提案型やパートナーとして支援する方向とはちょっと異なってしまいます。核となるよいプロダクトやコンテンツがあってのサービスであることを忘れてはなりません。

一方のホスピタリティは、おもてなし、思いやり、相手の立場をおもんばかる、といった意味で、競争原理のなかにあっても一人勝ちでなく共栄共存を目指し、お客様はもちろん社員も幸せを共有できるまでになることを目指すものです。

お客様との相互信頼や相互理解をもっと深めたいという視点からすれば、本来サービスよりホスピタリティという言葉の方が適していそうです。技術やあるべき姿を追求する場合、困難ではありますが、私たち自身が出来る限りお客様と同じ目線で考えられるポテンシャルや知識を蓄積し、その価値を認めていただけるようになることがとても大切なことと思っています。そうした関係が築けてこそお客様と共鳴しあい、新しい価値を創出できるのではないかと思います。企業活動において、ホスピタリティは心の持ち様として必要なのは勿論ですが、本質的には私たちがご提供するプロダクトやコンテンツ自身がその精神を具現化していることがより重要です。ご支援の内容を、サービスからホスピタリティに転ずる(深める)年と捉えたいと思います。

私どもの大切なお客様である自動車産業の状況に目を向けたとき、多くのOEM様においてデジタルモックアップ(DMU)を中核にした開発プロセスの革新を実現し、開発期間の短縮に大きく寄与されております。一方でデジタル化に伴うモデリング工数の増大や、CADの複雑化による設計者自身のCAD離れといった新たな課題も顕在化してきました。

昨年末、世界自動車会議で日産自動車の中村常務、ダッソー社のシャーレスCEOとのパネルに参加させていただきましたが、そのとき中村常務が「エンジニアに失敗の機会を与えてくれるCADが欲しい」といわれたのが印象に残っています。エンジニアの立場から見ると今のCADはプロダクトアウト的と見られてもやむをえないと感じます。エンジニアにとってのITツールを、ホスピタリティの視点から見たとき、まだまだほど遠いところにある、あるいは最近はむしろ遠ざかりつつあります。これからはディテールを形作る道具からアイデアや構想を支える道具に目を転じることが必要になっています。

ここ数年、製造業は一貫して原価低減の要請に応えてきました。今後もオフショアの活用などの継続的な原価低減努力が必要ですが、それだけではなく今まで以上に品質向上への努力が重要になると推測しています。物づくりとITの融合も、単に親潮(IT)と黒潮(物づくり)の表面的なぶつかり合いによる融合ではなく、栄養豊かな深層水レベル、言い換えればITも物づくりもそれぞれに更に深掘りをし、本質のレベルでのぶつかりあいと融合が求められています。単にDMUを作るレベルの融合ではなく、より深い掘り下げにより仮想実験車をコンピュータの中で走らせるまでの融合にチャレンジしなければなりません。

これまで幾つかの反転の兆しを挙げてみました。弊社は今年度をターニングポイントの年と捉え、第二の創業の気持ちで、“より深い掘り下げと洞察”による新たなビジネスモデルの創出とそれに向けたチャレンジをして参りたいと思います。そして

  • サービスからホスピタリティヘ
  • DMUから仮想実験車の時代へ
  • ITと物づくりの深層での融合へ
  • コストに加えて品質へ

といった点に注力し、引き続き“結果責任を取る姿勢”を維持していきたいと思います。今年度はコスト削減を継続するなかで、これまで以上に質にこだわった業務運営を心がけて参ります。引き続きご指導とご支援をいただけますよう、どうかよろしくお願い申し上げます。

(代表取締役社長 間瀬 俊明)

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