3人に1人が癌(がん)で亡くなっていると言われているように、がんは身近な病気になってきています。近年、その治療に粒子線治療という最先端の技術が活用され注目されています。TBS「夢の扉~NEXT DOOR~」4月19日放送でも紹介された粒子線治療法に、弊社の「NXボーラス・コリメータモデリングツール」が活用されていますのでご紹介させていただきます。
粒子線とは放射線の一つです。では、放射線治療と粒子線治療の違いは何でしょう。放射線はがん細胞を破壊しますが、同時に周囲の正常な細胞もダメージを受けてしまいます。一方、粒子線治療はがん細胞だけを破壊し、周囲の細胞はほとんど影響を受けません。治療困難な深部のがん細胞にも効果的で、副作用も少なく傷跡も残りません。魔法のような治療法ですが、胃や腸など不規則に動く臓器や広く転移したがんなどは、粒子線治療でも技術的に難しく、技術改良が日々進められています。その放射線腫瘍学・核医学領域において、先導的な役割を果たしておられる、群馬大学重粒子線医学センター(群馬県前橋市)ヘ「NXボーラス・コリメータモデリングツール」のシステム導入支援のため、今年の春に伺いました。
広大な敷地の一番奥へと案内され、総合体育館か展示会ホールを思わせるような綺麗な外観、エントランスフロアには施設のスケールモデルや、粒子線治療について素人でもわかりやすいパネル説明が置いてあります。施設内も見学させていただき、粒子線治療の心臓部ともいえる加速器を目の前にして、身の引き締まる思いでした。
粒子線治療について伺ってみました。
―― この建物の中でがん治療ができるのですか?
この中には治療室が3部屋あります。さらに重粒子が光速度の70%程度まで加速する直径約20mの加速器と制御設備があります。これでも国内では小型な装置です。
―― 一回の治療料金はいくらですか?
自己負担総額は約300万円です。患部によっては健康保険診療にもなります。
―― 治療は痛いですか?
痛みはほとんど無く、体の機能や形態の欠損がないことが特徴です。粒子線治療そのものは患者身体への負担が軽いため、通院でも治療が受けられます。
―― なぜ粒子線でがんが治るのですか?
効率よく、がん細胞を退治して正常細胞を生かすように、粒子線の量や照射の分割と範囲を調整しています。そこにボーラス(注1)とコリメータ(注2)が使われ、重要な役割を担っています。
ボーラスとコリメータは、粒子線治療のどこでどのように使われているのでしょう。粒子線は体の表面から15cmほどの深さにおいて、吸収線量がピークになる特性を持っています。その特性を利用し、患者ごとのがん病巣の形状に合わせて作成された、ボーラスとコリメータを照射装置の末端に装着することにより、正常細胞への損傷を抑えながら病巣だけに集中照射できる仕組みを作り出しています。
既にがん患者の治療が行われている、兵庫県たつの市にある兵庫県立粒子線医療センターに、先日「NXボーラス・コリメータモデリングツール」のメンテナスに伺いました。
ここでは治療計画装置から病巣の形状データが転送され、「NXボーラス・コリメータモデリングツール」でボーラスとコリメータのNCデータを生成しています。ボーラスは材質にポリエチレンを用い、10cm以上の切削深さを必要とし、病巣の形状に対しマージンを取るため急壁な切削をしなければならず、工具の刃長も長くなります。コリメータは材質に真鍮を用い、厚さは5cm以上となります。それぞれ切削を効率良く行うためにNCデータ作成には工夫をこらし、マシニング加工が終わったボーラスは、最後にサンドブラスターを使って仕上げられます。
私事で恐縮ですが、数年前に義母をがんで亡くしました。地元の病院でがんの告知を受けてすぐに摘出手術を受けましたが、それ以外の治療方法は検討されませんでした。その病院では放射線治療も、家族が希望する抗がん剤も使用できませんでした。結局、摘出手術後も抗がん剤治療の副作用で食欲不振や激しい痛みに苦しみ、QOL(生活の質)が著しく低下する中、1年半後に亡くなりました。
ある日突然がんを告知され、困惑するなかで治療の判断を迫られている人が多数だと思います。現在、がん治療は地域格差が大きく、世界標準の治療を受けられる施設は限られています。がん治療の選択、つまり、外科療法、放射線療法、化学療法などの治療法について情報が広く認知され、患者自身が十分理解したうえで適正な治療を選択できることを望んでいます。
この粒子線治療の技術が、がん治療の選択肢の一つとして普及し、そして、最善の治療、全ての患者とその家族が望む治療が施される、そんな日が一日も早く来ることを願いつつ、医療現場においても「モノづくり」のサポート支援により一層尽力して参ります。
(プロダクションエンジニアリング部 課長SE 鈴木 敬太)
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