過ぎゆく時間の早さに驚くばかりの毎日ですが、環境の話題について言うと「共通だが差異ある責任」を訴えた鳩山首相の国連演説から、もう半年が経ちました。この演説は素晴らしい内容であったと思いますが、やはり賛否はありましたし、どの企業においても排出権などの話より不況からの経営建て直しの方が先立つ課題です。
ものづくり企業様にしてみれば、EV(電気自動車)などの新規事業へのシフトが重要かつ緊急なテーマになっており、同時に原価低減と市場獲得のための海外移転なども逼迫したテーマではないかと思います。海外展開の話においては、国産レベルまで品質を上げようとすると投資がかさむといった課題も聞きますし、日本の人事制度や商慣習が現地には馴染まないとか、ましてや環境問題の対応は、常識感や生活水準の違いもあって話が進まないといった状況のようです。こうした背景から、経営の操舵は年々難しくなってきています。
2001年に邦訳が出版された本で「イノベーションのジレンマ」(翔泳社)というものがありました。ハーバード・ビジネス・スクールの教授が書いた本ですが、「破壊的イノベーション(技術の飛躍的革新)が企業を滅ぼす」といった内容を紹介しています。それによると、優良な企業は、お客様基点で持続的成長の維持に注力するため、斬新で未熟な革新的技術に対しては投資を怠ってしまう。そのために、新規市場の台頭と同時に革新的技術を強みとする新興企業に駆逐されていく、といった内容です。本の中では、EVこそが破壊的なイノベーションであるとも警告しています。この本の教えるところに従うなら、革新的な技術に対応する組織を作り、イノベーションのマネジメントをしていくことや、資源配分をしながら、革新技術の成熟度合いに見合った市場を作っていくことなどが戦略となります。これによって、私たちは変化する市場・革新される技術の中でも 成長を続ける企業であり続けることができそうです。
しかしながら、ここで視点を戻してみると「それで良いのか?」という疑問がわいてきます。前述の戦略に基づき、我々が破壊的な技術のマネジメントをすることで、変遷を続ける市場においても競争に勝ち残ることができるとします。EV関連の新規事業で、圧倒的な売上・利益を叩き出すことができるやも知れません。しかし、それら技術革新と市場競争を繰り返しながら産業を成長させ、新たな消費社会を生み出していくことは、環境問題への解にはなり得ていません。手を替え品を替えて競争社会で勝ち続けた時に、再生不可能なまでに荒廃した自然の中にいる自分たちを見つけたならば、その時はどんな空しさや後悔に苛まれるのでしょうか。
ここまで考えて再認識することは、やはり企業活動の主意は社会貢献であり、これからのものづくりは、子供たちの時代へ贈ることができる地球環境を維持し、育むことができる活動であるべきだといったことです。大気汚染や電力消費が少ない製品でも、多量に生産・販売することを目標にしては、むしろ環境へ与える効果はマイナスとなるでしょう。構想・企画から開発、生産、販売、保守、リサイクルといった製品ライフサイクルの全てにおいて、環境負荷を下げ、あわよくば負荷をゼロにするような、ものづくりを広めていきたいものです。こういった次世代まで意識した、言わば思いやりの気持ちに基づく新しいものづくりは、ここ数十年歩んできた競争意識を活力源とした事業とは似て非なるものであり、社員の動機付けや日々の充実感も、全く質の異なるものになるように思います。
私たちも、このような視点での新しいものづくりをご支援できる日が、一日も早く来ることを待ち望んでいます。
(業務部 部長 吉野 琢也)
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