今夏8月末にアメリカ南東部を襲った大型ハリケーン「カトリーナ」により、ニューオリンズにある湖や海岸の堤防が決壊し、市の8割が水没したとのことです。ほぼ同じころ日本を襲った台風14号は九州を中心に大雨をもたらし、宮崎県では1300ミリ以上という想像を絶する雨量を記録しました。その結果土砂崩れや川の氾濫など各地に甚大な被害を与えたとのことです。昨年末のスマトラ沖地震の津波も併せて考えると、このところ水による自然災害の大きさに改めて驚きを覚えます。
一言で水といっても、地球上には様々な形で存在しています。データブックによると、その総量は138598461*106(km3)とあり(といってもさっぱり分かりませんが)、そのうち海水が占める割合は実に96.5%とありました。たった残り3.5%が淡水ということになりますが、その淡水も大部分が地下水と氷雪(主に南極大陸)で、直接飲料水や生活用水として使える湖、河川、大気中の水を併せてもわずか0.014%、地下水全てを足しても1.714%しかありません。また地球の表面積でみると陸が29.2%、海が70.8%と7割以上が海ということになります。遠く宇宙から見ると、地球というより水球、あるいは海球と言ったほうが適切かもしれません。
水を含めるとこれだけ大量にある水も、直接生活水として使えるのはほんのわずかしかないというのはちょっとショックでした。台風がもたらす大雨や、大きな河を眺めていると水はほぼ無限にあるように思われますが、(海水が蒸発して雨になり淡水を作るとしても)実用可能な水はほんのわずかしかないと思うと、爆発する人口に対する真の問題は石油よりむしろ水であるというのもうなずけます。
先日、東京の本郷方面に出張した折、約束まで少し時間があったので汗を抑える意味も兼ね出張先の会社のすぐ近くにあった、東京都水道歴史館という施設を訪れてみました。訪れたとき私以外の見学者はたった一人で閑散としていましたが静かで涼しくとても快適でした。2階展示室は江戸上水をテーマに神田上水や玉川上水など、江戸の文化を支えた水の歴史が紹介されていました。発掘された大名屋敷の木製の水樋や水桶、継手といったものが当時の様子を再現する形で展示されていました。
地下に埋められた木製の水樋などがどうして長いこと使えたのか不思議な気がします。1600年代から作られた水樋が(ローマにはそれより1500年以上も前に石で作った巨大な水道施設がありましたが)なぜ腐食しにくいのか、漏水が多かったのではないか、あるいは水質汚濁による大きな疫病の発生がなかったのだろうか(欧州では14世紀に人口の4分の1から3分の1が死亡するペストの大発生がありました)といったたくさんの疑問が湧いてきました。帰り際に受付の女性に尋ねたところ、水が流れていることで腐食しにくいこと、江戸時代の水質管理はしっかりしていたこと、明治維新で薩長藩から来た人たちは、水の管理方法を知らず、明治になってコレラが大流行したこと、その結果江戸上水の利用が難しくなったが、西洋技術の導入で関東ローム層の下にある地下水をくみ上げる深い井戸を掘れるようになったので、近代水道に変わる前の東京で多くの井戸が掘られたとのことでした。
水の話を長々としたのは、以前から「情報」もある意味で水ととてもよく似た性格があると感じていたからです。インターネットや企業内のLANなどのネットワークは水道管に例えられます。データベースはダムや湖、ネットワークを流れる情報はもちろん水道管内を流れる水にあたります。水は人や生物が生きるためのインフラですが、情報は文明を維持するためのインフラといえます。どんなに立派なデータベースシステムを作ってもそのなかの情報(データ)の精度が落ちると使えないは、汚れた水が飲めないのと同じです。情報の精度(水質)を保つのが大変なのも同じですが、一旦汚れるとなかなか回復できないし使われなくなるのもよく似ています。最近ネットワークに入り込むウイルスも悪質巧妙化し、私たちの文明社会を脅かす存在になってきたのは、水道水に細菌が入り込み、コレラやペストといった疫病が蔓延するのと似ています。江戸上水が明治になってその水質を管理する技術やマナーが(多摩川に船を往来させたことなどによる水質汚濁などで)失われたのと、今の情報システムがセキュリティ問題で社会全体が悩まされはじめたのととてもよく似ているように思われます。
地球上の水危機は有史以来続く人口増や水の乱用、工業化などによる水質汚濁などが原因ですが、性質が似ている情報や情報システムの未来の危機を予告あるいは警告していると捉えてみては如何でしょうか。水危機のような状態に陥らないために、地球上の水の歴史や治水への取り組みや失敗例に学び、ネットワーク社会での情報システムの在り方や管理の方法の参考にしてみてはと思います。精度のよいデータベースを維持することが如何に大切で大変な仕事か、お客様に理解していただく手段にもなるように思います。またウイルス退治やセキュリティ対策も、力には力をといった西欧型の対応だけではいずれ破綻するのではないかと危惧されます。Informationを情報と誰が訳したかわかりませんが、「情報」という言葉を分解すると「情けに報いる」となるとありました。情報化を進めれば情けに報いる思いやりの社会が作られるべきかも知れませんが、現実は逆になっていくようです。情報化に携わるものとして一端の責任を感じますが、家に鍵をかけなくてよかった古きよき伝統や、江戸時代の水質管理や治水の知恵を改めて取り込むことで増大するITコストを抑えシステム管理を効率化することができないものかとふと考えてしまいます。
代表取締役社長 間瀬 俊明
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