『インドの会社が来ているが会ってみないか?』・・・十数年前のことです。インド企業からの盛んな売り込みに対して、当時の日本では需要も関心もさほどありませんでした。しかし、その後、オフショアニーズの拡大や製造業のインド進出の増加により、その関心は飛躍的に高まりました。当社はこれまでオフショア業務に関し、インド企業との業務提携などを行ってきましたが、これからは、さらに一歩踏み込んだオフショア展開やインド拠点でのサービス展開が必要と考えています。
今回、主要な現地ITベンダー(HP社、WIPRO社、INCAT社)、および富士通グループ拠点を訪問し、調査および意見交換をしてまいりました。今回は感想を交えて、現地の状況をお伝えいたします。
車とオートバイでごった返すチェンナイ市内を抜けると、ひときわ目立つ高層ビルが見えてきます。HP社のグローバルバックオフィスのインド拠点、HPタワーです。
1階玄関を入るとフロアを埋める人だかり。50人以上でしょうか。皆の視線が私たちに集まります。警備の人がインド訛りの英語で「インタビュー?」といって、記入帳を指差します。どうやら入社試験の面接のようです。先ほどの注目は、日本人も面接に来たとでも思ったのでしょう。よく見ると男性、女性が半々くらい。服装はばらばらで、日本のように一様にダークスーツではありません。特に緊張した様子もなく、自信に満ちた表情で悠然と待っています。
教育水準の高いインドでは、毎年数百万人が大学新卒者として社会人になります。彼らは、高度な教育と英語能力を活かしつつ、与えられたチャンスを最大限に利用し、転職を繰り返すことでキャリアアップしていきます。
グローバルなバックオフィスとしての需要と欧米企業であることから、HP社のような外資系企業は就職先として高い人気、憧れの企業だそうです。
企業は信じられないほど多くの応募者の中から優れた人を選抜し、入社後も選抜を繰り返しながら、社員の質を高めていくといいます。これにより、質の高いグローバルなヘルプデスクやバックオフィスなどのBPO(注1)を実現しています。
今回訪問したHP社などは、インドの人たちを単に低コストの労働力としてではなく、優れた能力を戦力として積極的に活用していこうという姿勢が印象的でした。まさにインドに根付いた企業であると強く感じました。
(注1) BPO:Business Process Outsourcing
最近、関心の高いプネ。インドで指折りの文教都市で、次なるIT最先端都市です。そこに広がるIT工業団地には、WIPRO社, INFOSYS社, INCAT社など多くのインドIT企業が拠点を構えています。
広大なWIPRO社敷地内にある高層ビル。その高層階の会議室で打ち合わせを行いました。解析のオフショア業務で当社と関係があるエンジニアリングサービスの各プロジェクトマネージャーに、担当領域ごとの実績や提供サービスを説明していただきました。
自動車の様々な部位のCADモデルや解析結果サンプルなどを示しながらのプレゼンテーションから、自動車開発での幅広い実績が見てとれます。自動車の部位ごとにスペシャリストを配置し、専門的な業務をこなすことで、その専門性を高め、ノウハウの蓄積を進めているようです。近年は蓄積したノウハウを活かしたプロセス改善など、上流工程での事業展開を図っているとのことです。
同じ工業団地内にあるINCAT社は、長年エンジニアリング領域に特化した専門会社です。当社とはソフト販売・サポートや共同プロジェクトで協調関係にあります。
日本企業の顧客も多く、担当者はしばしば日本に滞在するなど、日本国内におけるお客様とのつながりも深いようです。
案内されたオフィス内は、まるで大学のキャンパスのような雰囲気が漂い、中庭では技術者たちが気軽に会話を交わしています。中庭を囲むオフィスでは、お客様ごとのブースが設置され厳重なセキュリティの下で作業が行われていました。専門会社としてその高い専門性と顧客との密接な関係を強みとしていると感じました。
ソフト開発でのオフショア業務と同様にエンンジニアリングサービスにおいても、より付加価値の高いビジネスに移行しているとのことです。
理工系大学など最先端の教育を受けた技術者たちが、CADモデリングや解析などを担当しています。作業の早さや質の高さには、目を見張るものがあります。世界中の自動車会社からの仕事を数多く経験し、実務的なスキルと専門性を高めています。各企業は蓄積されたノウハウやハイスキルな技術者を活用し、開発業務のプロセス改善など新たなビジネス領域での展開を図っています。
また、日本企業で実績を積み上げ、企業との関わりを深めるなど、オフショアだけでなく日本国内でも競争力を持ち始めているのです。
インドでは日本の自動車メーカーの車を数多く目にします。ところが他産業の日本企業となるとその存在感はさほどではありません。私ども富士通グループも同様の傾向にありますが、インドでの日本企業向けの支援を中心にビジネスを展開しています。
富士通グループのインド拠点は、現在2つあります。FIL社(Fujitsu India)とFCIL社(Fujitsu Consulting India)です。
FIL社は、主にハード販売と日本企業向けのオフショア業務を行っています。特に日本の商習慣や日本語への対応に力を入れています。一方、FCIL社は北米を中心としたシステム開発のオフショアやヘルプデスクサービスを行っています。
欧米企業に比べ、ITサービス提供はまだまだこれからです。しかし、人材の流動性が高いインドでは、サービス提供に必要な人材も豊富であり、優秀な企業も多いため、現地企業との連携による対応は現時点でも充分可能です。今後はお客様のニーズに応じて、インド国内でのサービス提供を強化していく予定です。
先行する欧米企業や力をつけるインド企業と、私ども日本のITベンダーは、どのように対応していけばよいのでしょうか。
私たちはお互い競い合うのではなく、現地企業と協調することで、お客様のニーズに応じた多様なアプローチが可能と考えています。当社はインドにおいても、富士通拠点や現地ITベンダーとのパートナーシップを重視し、強化していくことでよりよいサービスの提供を目指します。そして日本の製造業のグローバル展開に対して、お客様が必要とするサービスを多様なアプローチでご提供してまいります。
(エンジニアリングサービス部 課長SE 中條 雅司)
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