七夕は、織り姫と彦星が一年に一度、7月7日の夜だけ天の川を渡って会うことを許されたという中国の伝説からきています。織り姫は機織(はたおり)がたいへん上手であったということですが、糸を紡ぎ、布を作りだしたのは紀元前5000年以上も前で、人類最古の技術の一つとのことです。名古屋にあるトヨタ産業技術記念館は何度も訪れましたが、特に繊維機械の展示が充実しており、いつ見ても織機の歴史やその精巧なメカニズムに感心してしまいます。モノづくりの現場や道具を見る機会が減り、ましてやその道具が目に見えないソフトに代わっていく中、モノづくりの技術をどう伝え、どう進化させるのか、ますます難しい課題になっていくのを感じます。
この7月は弊社にとって大きな変化のある月となりました。先月すでに富士通から発表されましたように、富士通グループのPLMビジネスの事業を再編し、DIPROは富士通グループのCADパッケージビジネスの中核会社(総本山)として位置づけられました。これにより従来のDIPROのCADビジネスに加え、富士通本体のCADパッケージ(VPS、SolidMX、および電気系CAD)も当社にシフト・集約されることになりました。また併せて富士通本体の持つPDMパッケージ(PLEMIA)のビジネスは富士通長野(FNS)に集約されます。なお移管されたパッケージの販売、およびシステム構築は従来どおり富士通、およびグループ会社で行います。
今回の再編・体制強化にあたり、少し大仰すぎるかもしれませんが、日本の製造業のモノづくりにかかわるITが現在どのような状況にあるか、その背景について少し触れさせていただきます。
日本のモノづくりは80年代、「ジャパンアズNo.1」、「もはや欧米に学ぶものはない」と豪語した頃を頂点に、バブル崩壊に続くアジアの台頭とユーロ圏や米国経済の復活により、急速に競争力を失くしていきました。2000年頃はしばしば“失われた10年”といわれましたが、バブル崩壊から17年も経った今でも、自動車など一部の強い産業を除き依然として失われ続けているのでは、と懸念されます。この歯止め役をどんな産業に期待するのでしょうか。既存の産業か、新たな産業か。
私の立場からは、全ての製造業が活力を取り戻し、経済のみならず様々な面で明るく元気な日本によみがえる牽引役になってほしいと願っています。
ところでグローバル化の進展で、日本の製造業の国内生産比率がどんどん落ちてきています。例えば昨年度の自動車産業では国内生産に占める輸出の割合は57.4%に、そして海外生産がついに国内生産台数を上回りました。製造業の海外依存、海外シフトが鮮明です。今でも多くの生産拠点の海外移転が続いていますが、最近は開発業務自体も一部海外で行う企業が現れてきました。しかし、モノづくりや開発に係わる分野のITは、ほとんどの産業で欧米製パッケージが主流になっています。
エンジニアリング分野のIT化とは、物をつくるプロセスに必要な道具、工作機械、製造装置などの機能を、IT(ソフト)が代わって受け持つということです。かつての日本の強みはこれらハードの技術と、それを使いこなす技能の両面に強かったことにあります。ハードが担ってきた機能がソフト化されること自体は必然の流れですが、そのソフトが日本のモノづくりの強みを発揮しやすいか否かはとても重要な視点です。もちろん欧米製も日本人が発想できないような大変優れたものを持っており、それを否定するつもりはありません。しかし一方で必ずしも日本の開発プロセスや、エンジニアが直接使う道具としてはマッチしない部分も多く見られます。とりわけ、設計者の役割や品質の重要性についての認識の差は大変大きいと感じます。
日本の自動車産業が日本的モノづくりの特性を活かすことでグローバルな競争力を獲得しているのと同様に、道具としてのソフトも、いい意味で欧米製に並ぶ、あるいは超える競争力を持つソフトを開発できねばなりません。私たちにはそうする責任があると思っています。少し前置きが長くなりましたが、この分野のITの状況について日頃感じていることを述べさせていただきました。
さて、今回の再編の狙いは、これまでのDIPROの、自動車・機械・精密などメカを中心としたパッケージビジネスに、富士通グループの、主に電機・電子分野に強いCAD系パッケージをDIPROに集約することで、メカ、メカトロ、エレキ全ての製造業のエンジニアリング分野に対し、より価値の高いプロダクトやサービスをご提供できるようにすることにあります。言い換えればメカ、エレキ、ソフトなどの産業自体のボーダーレス化と、製品自体における、メカ、エレキ、ソフト技術の一体化への流れの、双方に対応できる体制にしたいとの考えから実施したものです。
具体的には主に電気・電子産業向けデジタルモックアップツールのVPSや、SolidMX、そして電気系のCAD/CAEを移管することでDIPROの従来のプロダクトや技術との融合を進め、双方を一層優れたプロダクトに成長・進化させたいと思います。
もう一つの大きな狙いは、機械・精密・電機産業向けのメカ用CADとして圧倒的な機能・性能を誇るDIPROのICAD/SXを一段と強化することです。そのためにICADの開発要員をグループ会社から集結し、この分野の日本発グローバルスタンダードに育てたいと念じています。
以上の再編・体制強化にあわせ、同時に今までのDIPROの体制も大幅な変更と強化を行ないました。次に主な変更点について触れさせていただきます。
1点目は、昨年来シーメンス社のNXシリーズ、およびTeamcenter製品群のサービス・サポート力と、アプリケーション開発力の質と量の両面での強化に注力して参りましたが、その仕上げと、お客様のI-deasからNXへの移行に向け臨戦態勢を整える意味で、大幅な組織の変更・強化を実施しました。2点目は、お客様企業に於いて上流にあたる製品開発プロセスのデジタル化が成熟しつつあるのを受け、急速に進む生産分野のデジタル化に対応するため、分散していた生産技術関連業務を集結し、新たにプロダクションエンジニアリング部を設けました。また3点目は、3次元プロセス構築のコンサルティングや解析シミュレーションのニーズの拡大に備え、組織を拡充しました。そして4点目に弊社独自のデジタルプロダクションツールであるVridgeRの開発・拡販・サービス機能の強化を行いました。
七夕のヒロイン、織り姫が織った美しい織物は、きっと優れた機織機と織り姫の素晴らしい技(わざ)から生まれたものと思います。今回の再編と組織の変更は、モノづくりの道具がソフトに代わりつつある中、そのソフトとDIPROの一人一人が、機織機と織り姫のように優れたものを生み続けたいとの思いを込めたものです。
また、産業デザイナーで、成田エクスプレスや40年変わらないキッコーマンの醤油びんのデザインで著名な、栄久庵憲司さんはユニークな道具論を唱えられ、道具には命があると言われています。そして日本人は道具を自らの分身と見なし、道具が命を亡くしたとき(捨てるとき)、様々によぎる思いを供養(例えば針供養)の形で表すほど、道具に対し愛情や感謝をする心を持っていると述べられています。
私たちは、モノづくりを支えるソフトやサービスを、同じような心で作り、末永く使っていただくご支援をして参りたいと思います。そしてこの心こそが日本と欧米との本当の違いではないかと思います。
今回の移管・再編、そして組織の変更により、私たちは異質の共生から共鳴へ、そして融合から創造へと、新たな価値を生み出したいと思います。その結果、皆様から真のソリューションプロバイダーと認められ、日本発のソフトウエアを世界へ発信できるベンダーに成長すべく更に努力と研鑽を深めて参ります。
今後ともご指導の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。
(代表取締役社長 間瀬 俊明)
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