仕事柄3次元CADについて考える時間が多かったこともあり、次元とは何か、また次元と次元の間にどんな関係があるかなど、随分あれこれ考えてきました。次元については今までさまざまな本やサイエンス誌、あるいはSFなどで語られていますがCADとの関係も含め少し触れてみたいと思います。
ユークリッド幾何での次元とは空間や図形の広がりを表す概念です。1次元の世界は点や直線ですが、文章(文字列)や数式なども広義には1次元と考えられます。2次元は平面の世界ですが、その代表格は図面で、エクセルなどの表や鉄道のダイヤグラム(時刻表)も2次元表記です。3次元といえば私たちが暮らす世界、すなわち空間や物体が代表的なものです。さらに一つ次元が加わるとどうなるでしょうか。幾何学的に考える4次元は超空間を指すことになります。数学的には矛盾なく定義できますが目では確かめられないので、しばしば2次元や3次元のアナロジーとして説明されます。
それでは次元と次元の関係はどうなっているのでしょうか。三角形や四角形といった2次元形状を、同じ2次元平面上で見れば単に線分にしか見えません(図1)。しかし1つ上の次元になる3次元空間から俯瞰すれば即座に形の全貌が見えます。同様に3次元の物体を3次元上で見ると物体の隠れた部分は見えませんが、もし4次元の超空間から見れば全てが一望できるし、4次元世界では3次元の物体の中に入ったり出たりが自由です。ちょうどタイムマシンに乗ったような世界が可能になります。
また幾何学ではなくアインシュタインの相対論ではこの宇宙を4次元時空として捉えています。ある物ごとを特定するには場所だけでなく時刻も必要なため、時間軸を第四の次元とみなしています。時間の概念を取り入れると、3次元物体は、ほんの一瞬の存在となります。この一瞬を、その物体の現在と呼ぶと、現在は4次元時空の3次元断面となります。わかりやすくするため空間から高さ方向を省略して2次元の平面で代用すると、現在という断面で過去と未来という4次元領域がその前後に存在することになります(図2の左側)。
ただし人類や地球の歴史というスパンで見ると3次元空間は一瞬というより例えば現代から近未来といった、ある時間幅をもって考えた方が分かりやすいと思います(図2の右側)。
CADの世界では1次元から3次元まであり、それぞれ次元を一つ上げると形状をより詳しく表現できます。一方次元を下げると(例えば3次元形状の断面をとるように)余分なものが取り除かれ、その特徴を抽出しやすくなります。現在の3次元CADの効用は形(立体)をより正確に表す目的だけではなく、時間軸の短縮や、離れたところで同時に仕事をしやすくする(開発期間の短縮やコンカレントエンジニアリング)など、時間軸の価値を高めることが中心になっています。その意味で相対論的には4次元CADを目指している、あるいはすでに4次元時空の世界にあるといえます。
ところでなぜ突然このようなお話をしたかということですが、最近の多くの問題は現在という時空の中で閉じられない問題が多く、かなり長期の時間軸を含めて考えないととても解決できないからです。
例えば石油資源の枯渇問題、人口増加や少子化の問題、さらには温暖化やCO2の増加などの環境問題は現在という時空の中だけにとどまるものではなく、むしろ将来の時空でより深刻な問題となるのは明らかです。科学技術が人間を増力したことで、次世代や未来への影響が無視できなくなってしまいました。急速に発達した文明の、自然に与える影響は修復不可能どころか人類の生存すら危ぶまれるほど大きくなっています。さりとてCO2などの廃棄物やゴミを宇宙の外に捨てることは、ほとんど不可能といってよいと思います。第二宇宙速度(地球からの脱出速度)は11.7km/sで、1tのゴミを捨てるのに石油なら1t以上のエネルギーがいるためです。原子力を多用すればもっとやっかいな廃棄物処理の問題になりそうです。人類は物質同様にエネルギーに関しても何も産みだせず価値の低い低温の熱などにして捨てる、即ち単にエントロピーを増やしているだけなのです。人類は閉鎖系の地球に対し、無視できない非可逆的な影響を与える時代になっています。環境問題だけでなく国の1000兆円を超える巨額な借金も私たちというより次世代、次々世代の人につけをまわすという意味で同質の問題に思われます。
このようにCADの世界だけでなく人間の住む環境では3次元空間に留まらず、4次元の世界即ち時間軸がより重要な意味を持つ世界となっています。
「民主主義は最悪の政治形態と言うことができる。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば」というのは、英国のチャーチル首相が1947年に下院で演説したときのものです。ユーモアとウイットに富んだチャーチルが、民主主義の政治形態を逆説的に称えた言葉として有名です。このように政治・社会システムとして最も優れた仕組みとみなされる民主主義でさえ、3次元世界すなわち今生きている人だけが意思決定に参加できるシステムです。昔はそれで十分であったということです。なぜならかつての人類が生み出すエネルギー量は相対的に少なく、未来(時間軸)への影響を無視できたからです。しかし近年の科学技術の急速な進歩に政治・社会システムが適応できなくなり、未来への問題を増幅してしまいました。
これを解決するにはどうするか、一つは地球が破滅する前にエネルギーの使用や、国の借金を含めた様々な負債をすべて現在の人々が返せる範囲にとどめる技術と社会を作ることです。もう一つは次世代の人々と平等に議論し公平な意思決定ができる世界、言い換えれば4次元時空の民主主義を創りだすことではないかと思います。
4次元の民主主義とは何か。それは自然・人文・社会科学を融合し、自然への畏敬の念と未来の人々の意思を反映できる新たな知の体系を作り上げることではないかと思います。
言い換えれば現在という3次元空間に直行する軸、すなわち時間軸を主軸とした4次元時空での民主主義を創りだすことです。10年後に生まれる人は30年後でなければ選挙権や発言権を持ち得ないという3次元的な拘束を取り払い、未来の人々があたかも今いるようにその意志を反映できる(例えば次世代の人々の立場でのみ発言権を持つ代議員制度を新たに作るなど)、一つ上の次元を持った、言い換えればたゆまず進む科学技術に速やかに適応できる新しい社会システムを創造することに人類の未来がかかっているように思います。
(取締役相談役 間瀬 俊明)
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