MENU

DIPROニュース

2010

12月号

2010.12.10

「オートモーティブ デジタルプロセスセミナー 2010」開催~厳しい経済危機から未だに混迷が続く時代、これからのものづくりとエンジニアリングITの行方は~

11月25日(木)、パシフィコ横浜にて開催した「オートモーティブ デジタルプロセスセミナー 2010」について、ご報告いたします。開催にご協力いただきました皆様、ご来場いただきましたお客様に、厚くお礼申し上げます。

2008年末に開催した前回から、ほぼ2年ぶりとなった今回のセミナーでしたが、先の見通しが立ち難い環境ということもあり、変化の激しい海外市場の動向や自動車各社様の取り組みを探ることで、お客様に今後の進むべき方向を見極めるための一助として頂くことを狙いました。

通算で第18回目となった今回、基調講演は中国自動車産業に明るい経済ジャーナリストの莫 邦富(モー・バンフ)様にお願いしました。莫様からは、急伸する中国内陸部の市場と日本企業による進出の実状をお話いただきました。

また自動車メーカー様による講演としては、この12月に発売される電気自動車リーフの話題を中心に、日産自動車株式会社 常務執行役員 篠原 稔 様にお話をいただき、続いて、旧来のレシプロエンジンを進化させることでハイブリッド車以上の超低燃費を狙うスカイコンセプトの取り組みについて、マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 本部長 人見 光夫 様にご講演をたまわりました。


山田 龍一 代表取締役社長の開会挨拶

また、パネルディスカッションでは、トヨタ自動車 大平 宏 様、日産自動車株式会社 山本 泰司 様、株式会社本田技術研究所 岩本 淳 様、マツダ株式会社 岡村 一徳 様、三菱自動車工業株式会社 太田 晃 様、スズキ株式会社 倉田 効市朗 様にご参加いただき、司会は弊社取締役 堀 吉晴で行いました。

市場変化の話題と今後のエネルギー問題の鍵を握る次世代エンジンの話題などで、ご来場いただいたお客様には、ご満足のいただける内容であったのではないかと考えております。

基調講演:
『中国内陸部市場の変化と日本企業のビジネスチャンス』

経済ジャーナリスト・作家 莫 邦富 (モー・バンフ) 様

「現場主義を貫きたい」とご自分の信念を語られた莫邦富様からは、中国ビジネスの現場で実際に見聞きし、感じられたことを中心にご講演いただきました。

冒頭に、中国では自動車のネーミングが販売に大きく影響することが紹介された上、評判の高い日本車名(日産TIANAの中国名“天籟:てんらい”)の名づけ親が実はご自分である、という紹介がされました。

2009年、中国はアメリカを凌ぐ日本の最大貿易相手国となっていますが、先のリーマンショックをきっかけに輸出から内需重視、工場から市場へと急速に方向性を転換しています。今後、2020年には中国の自動車保有台数は2億台超、電気自動車の購入意欲は世界一、80年代生まれの若い世代が消費市場の主役と言われているそうですが、これは上海や北京といった沿海部大都市が中心の話ではなく、安徽省、河南省、湖北省、湖南省、江西省、山西省などの内陸部が主体とのことです。近年、これら内陸部も魅力的な市場になり、現在も目まぐるしい成長スピードで拡大しており、この地域に目を向けないのでは、中国を知らないに等しいと説明をされました。

さらに内陸部の紹介として、中国ではごく普通の内陸都市、江西省南昌市に出店したファーストフード店や巨大スーパーの驚異的な売上げや、毛沢東の銅像が象徴する保守的な都市、河南省鄭州市の中国大手デパートの例を挙げられました。高級ブランド専門店が並ぶ光景や、日本食品が豊富に品揃えされている店内なども紹介されています。これに対して、日本企業からの事業進出は皆無に等しいとのことでした。時折は内陸部に出張する日本のビジネスマンも、地元の消費力さえ確認せずに帰国する人がほとんどとのことで、中国のビジネスを語る資格なし、と厳しいご指摘もされていました。

これら内陸部の急成長に象徴される地方都市の発展は、外資(欧米)企業の内陸部移転と地方都市に本社を置く民族系企業の成功があり、具体的には製造力と雇用力の増強、交通インフラの整備、所得向上による消費力拡大という3つが支えているとのことです。またそれらに加え、中部6大都市圏構築という国策があり、これらが相まって現在の成長を生んでいるようです。

莫 邦富 様 講演の様子

ご講演中、内陸部のことについて来場者の方には反応が少なかったこともあり、耳の痛い内容のお話もありましたが、これは日本企業に対する叱咤激励ととるべきであると感じました。そして、先入観を捨て、新しい視点と物差しで中国を見ることにより、新たなビジネスチャンスが広がっていく、ということをご教示くださいました。

最後に「工場から市場へ」「製造から創造へ」という中国ビジネスを考える上での重要な2つのキーワードをご紹介いただき、閉塞感の漂う日本経済を活性化させる大きなヒントを与えていただいたように感じました。

ご講演:
『ゼロエミッション社会の構築に向けて ~日産「リーフ」の開発と今後~』

日産自動車株式会社 常務執行役員 篠原 稔 様

篠原様からは、真の意味のゼロエミッションとして、車の電動化のみならずエネルギーソースをもゼロエミッションへと転換することの重要性からお話しいただきました。

主題となる電気自動車については、今月の国内での発売を皮切りに、米国、欧州と順次販売が開始されるリーフをご紹介いただきながら、内燃機関の自動車と電気自動車の違い、歴史などを大変わかりやすくご説明いただきました。

電気自動車の実用化に向けては、自動車メーカー様とサプライヤ様が培ってこられた技術・ノウハウが必要であること、普及の課題であるインフラ設備については、公共施設のみならず、家庭も含め急速に整備されつつあること、用途に合わせて普通充電と急速充電を使い分けることが良いことなども説明いただきました。

またこれから、電気自動車が社会にとってどういう意味を持つか、さらには社会をどう変えていくか、について、太陽光や風力という再生可能エネルギーを使っていくエネルギーのスマート化と、交通システムの最適化と通信ネットワークの普及によるモビリティのスマート化の双方が必要であることなども、ご説明いただきました。これらの取り組みは、既に横浜市などでも官民連携のプロジェクトとして進められているとのことです。

そして最後に世界経済の視点から、移動量が増えていく新興国と、地球温暖化やエネルギー問題のお話をされ、早期にスマートなモビリティ・エネルギー社会を作ることの必要性と、それに向けた強い意気込みを語られました。

ご講演:
『マツダのパワートレイン戦略とそれを支えるIT』

マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 本部長 人見 光夫 様

マツダ様では、10年後も自動車の主要エネルギーは石油であるとの展望から、内燃機関の効率改善により、平均燃費30%向上させるマツダビルディングブロック戦略を冒頭にご説明いただきました。

内燃機関の効率改善については、現行の電気自動車の発電時に発生するCO2並みにまで低減するという目標についてご説明いただきました。

内燃機関の効率改善のためには、排気や冷却による損失を低減していくことが必要ですが、会場では数々のグラフを用いられて、効率を左右するどのような因子に対して改善を行っていくかを説明されました。また、実現に向けては、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの双方に対して、その特性に合わせた改善を施していかれるそうです。

これらの取り組みは、3つのステップがあるうちの第1ステップではありますが、目途は立っており、様々な障害や制約も克服しながら、是が非でもやっていくとの強い決意を語られました。

これらの取り組みは、モデルベース開発の手法を活用しながら、やるべき事を明確にし、選択と集中を行いながら進めていかれるとのことです。コアとなる要素に集中して、それらをコントロール可能にしていくため、CAEも活用しながら開発を進めていかれるとのことです。山積する課題も要素となる特性を、コモンアーキテクチャーとして整理していくことで効率的に課題の対処ができていくとのことです。

多数の興味深い研究結果をご紹介いただきましたが、講演中は時折、お人柄が伺えるようなお話の下りもあり、客席からの笑い声に会場が和んでいることが印象的なご講演でした。

パネルディスカッション:
『リーマンショック後のエンジニアリングIT - 課題と次の一手』

パネリスト

トヨタ自動車株式会社
エンジニアリングIT部
部長
大平 宏 様

日産自動車株式会社
エンジニアリングシステム部
部長
山本 泰司 様

マツダ株式会社
エンジニアリングシステム部
部長
岡村 一徳 様

日産自動車株式会社
エンジニアリングシステム部
部長
山本 泰司 様

三菱自動車工業株式会社
エンジニアリングIT部
部長
太田 晃 様

スズキ株式会社
デジタル技術部
推進課長
倉田 効市朗 様

司会

デジタルプロセス株式会社
取締役
堀 吉晴

パネルディスカッションは、「リーマンショック後のエンジニアリングIT ~課題と次の一手」をテーマに行われました。今回は、パネリストの皆さんに「3D化によるデジタルエンジニアリングの定着状況」、「増大する開発情報の有効活用」、「新興国・サプライヤ・OEM間でのコラボレーション」、「汎用フォーマットによる3Dコミュニケーションプラットフォーム」、「高度化する車の電子化とエンジニアリングIT」、「新たなITツールとエンジニアリング環境へのインパクト」、「IT費用(投資対効果や運用費用)」という7つのテーマについて準備をいただいて、当日に臨んでいただきました。

「3D化によるデジタル化が定着したか?」という議論に関しては、成果は出てはいるが、まだまだ今後の課題があるというお話や、各社各様の取り組みについてのお話も多く出されました。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

また、講演の中でも挙げられていたMBD(モデルベース開発)についても多数の意見交換があり、開発のフロントローディングや性能要求達成のために、標準化も含めて進めていく必要がある等々今後の方向性を感じさせる意見が多くありました。

最後にIT投資に関する話題がありましたが、自動車メーカーのみならずサプライヤ各社様、ITベンダー含めて協力し合って改善に務めていく必要があるとの意見で一いたしました。

各社様ともエンジニアリングIT活用への期待は大きく、IT活用を通しての業務改善に取り組んでいきたいとの思いを伺うことが出来ました。

全体を通して

展示・デモンストレーションの様子
会場の様子

展示・デモンストレーションの様子
デモコーナー
展示・デモンストレーションの様子
懇親会

例年通り講演会場の外側通路で弊社製品やソリューションの展示を行い、お昼休みや休憩時間を中心にご覧いただきました。中には食い入るように画面を見ながら担当者の説明をお聞きいただくお客様や、事前に質問をご準備されていたのか、受付後すぐに担当者にご質問をされるお客様もいらっしゃいました。また、今年はパートナー企業であるDreamEDGE社も初めて出展し、お立ち寄りいただいたお客様に、直接ご紹介することができました。

セミナー終了後の懇親会でも、大変多くのお客様にご参加いただきました。日頃お世話になっているお客様へのご挨拶はもちろんですが、お客様どうしでグラスを合わせながらご歓談いただいている場面も多数お見受けすることができ、一日を通したセミナーではありましたが、お客様にとって有益な一日をお過ごしいただけたのではないかと感じております。

お客様からは、非常に有益だった、大変参考になったといったご意見を多数いただきました。ご回答いただきましたアンケートの一部をご紹介させていただきます。

  • 中国内陸市場の変化に驚かされた。知らなかった中国を知ることができた。
  • 日産様、マツダ様の対極的な講演内容は大変興味深く、素晴らしかった。
  • パネルディスカッションは今後を考える上で参考になった。EIT全体の事情がわかり、大変貴重な機会だった。
  • 自動車メーカー各社の課題、動向を理解することができた。
  • 自身は他部署だが、設計者の視点に立つことができた。
  • 自動車各社の連携の場に繋げていきたい。

一方で、

  • 質疑応答の時間をとってほしい。
  • ITユーザーからの意見だけでなく、ITベンダーからの意見も聞きたい。

といったご意見もいただきました。

2年ぶりの開催でもあり、お客様から期待の声はいただくものの、当日までは多くの方にご来場いただけるのか、また、ご出席いただいたお客様がどうお感じになるのか、不安に思っておりました。実際のところ、開催当日は多くのお客様にご出席を賜り、更には心強いご意見を多数いただいたことで胸をなで下ろしました。この場をお借りして感謝申し上げます。

今後もお客様のお役に立てるよう、社員一同、より一層の努力をしてまいります。引き続きデジタルプロセス(株)をご愛顧いただきますようお願い申し上げます。

(DIPROニュース編集局)

TOP