ものづくりの世界は、リアルとデジタル、開発現場と製造現場、ものづくりのすべてのプロセスがつながり、また、グローバル化の進展に伴う情報管理や企業を越えた情報管理が必須になっています。ものづくりの情報を、製品仕様、部品仕様、部品構成を基軸に管理し、各部門へ流通させ活用するためのつながりの要(Index)としてBOMに多大な期待が寄せられています。(図1)
昨今、部品メーカーにおいては、売上拡大に向けた取引先メーカーの拡大、生産の現地化によるグローバル化の進展に向けて、BOMをIndexとして、企業内および企業間でシームレスにデータ入手できる環境整備が必須になっています。
取引先メーカーの製品は、電子電装分野を代表として多様化・複雑化が益々拡大しており、その製品バリエーション管理は人手による管理範囲をすでに越えています。これは部品メーカーにも波及しており、過去(既存)製品を含めた管理が必要になっています。
また、取引先メーカーからの引き合いはRFQ(Request For Quotation)によって提示されますが、競合他社との関係からも、RFQ回答のスピード、精度向上は必須であり、引き合い時点のRFQ回答内容が量産時のQCDに大きく影響します。
本稿では、部品メーカーにおけるBOMを基軸にものづくり情報を管理し、取引先である自動車メーカーとの企業間での情報管理および社内の関連部門との情報管理の取り組みについてご紹介します。
部品メーカーの情報管理の前提となる業務フロー(図2)は、引き合い、設計検討、量産準備の3つのフェーズに大別され、各フェーズでは、概要から詳細へと製品のQCDが確定されていきます。
以下では各フェーズの概要と主要課題を述べます。
受注前の引き合いのフェーズ(図2)では、自動車メーカーから発行されたRFQを営業が受入れ、設計要件、生産要件、品質要件について設計・生産・購買部門で検討し、営業から見積りとあわせてRFQを回答します。
自動車メーカーからは、以下のような要件に対する回答が求められ、RFQの回答には多くの労力、時間がかかっています。
設計要件:部品形状(3D、2Dデータ)、設計要求仕様、など
生産要件:製造方法、物流方式(JIT納入、一括納入)、収納方法(パレット、箱、容器)など
品質要件:品質保証方法(ルール)、部品保証期間、など
引き合いのフェーズでは、短納期の見積回答と見積りの精度が重要です。このため、部品メーカーでは、各部門で過去の受注情報から類似製品の検索や関連ドキュメントを参照しながら、各要件を検討し、RFQの回答まで大変な作業がおこなわれています。
したがって、ここでの課題は、過去(既存)の製品情報(仕様、適用、部品構成、図面など)をスピーディかつ正確に入手できることであり、同様の課題がTire2部品メーカーでも発生しています。【主要課題①】
決定した部品メーカーには、自動車メーカーから発注書が発行され、受入れ後、設計検討・量産準備を開始します。
発注書を営業が受入れ、設計は提案部品を中心に設計検討を行い、提案図を自動車メーカーに提出します。自動車メーカーで設計確認がおこなわれ、承認図が発行されると、部品メーカーでは、出図、生産手配をおこないます。(図2)
受注後の設計検討フェーズでは、以下のように諸元が異なる、多様な部品を取り扱っています。
部品メーカーの部品表は自動車メーカーとは異なり、Teir1部品メーカー、Tier2部品メーカーそれぞれの製品の特徴にあわせて、製品構成だけでなく材料、素材などの部品(材料)情報も部品番号をキーに管理しています。
例えば、仕向地(法規対応、寒冷地仕様など)により材料の配合が変わるなど、バリエーションが増大していきます。
さらに、自動車メーカーと自社、自社と部品供給メーカーとの企業を越えて、複数の部番体系と各社ごとの著作権/所有権などの知財管理要件も加わりとても複雑な管理になります。【主要課題②】
量産準備フェーズでは、生産手配部品の仕様変更とそのコスト変動を管理し、量産品の最終見積りを提出します。生産要件、品質要件、量産コストを満足すると、量産発注指示のもとに量産立ち上げを開始します。(図2)
仕様変更は、その都度、自動車メーカーから仕様提示が発行され、量産手配以降は発行されるたびに、設計検討・量産準備が必要になります。ここでは、仕様変更/設計変更内容と各部品との紐づけが重要となります。(図3)
仕様提示は以下のような仕様追加/変更がありますが、設計検討フェーズ、量産準備フェーズの中で頻繁におこなわれます。
Tier1部品メーカーでは、自動車メーカーからの仕様提示を受け取るたびに、設計部門が設計段階における部品構成情報のほかに、図面や3Dデータ、生産情報、関連ドキュメントなどを作成します。
量産準備フェーズに入ると、設計部門だけでなく生産部門と部品の製造リードタイムを考慮し、段階的に仕様検討と生産準備が始まりますが、Tier2部品メーカーとの企業間で仕様変更と整合の取れた変更管理も加わり、とても複雑な管理になります。【主要課題③】
さらに昨今の部品メーカーでは、取引先拡大にともない複数の自動車メーカーごとに異なる要件変更管理への対応と、自社の生産拡大やグローバル化の進展にともない、国内の関連部門間だけでなく海外の生産部門、さらに現地部品メーカーとQCD確保に向けた密な変更管理が必要になるため、仕様変更/設計変更内容と各部品との紐づけが重要なポイントになります。
前述の課題①②③の対応について、取り組み事例をご紹介します。
自動車メーカーからの受注情報をもとに、自動車メーカーごとの製品プロジェクト(車種、年式、仕向地、納品先など)と自社部品番号をキーに、図面、設計・生産・品質要件で検討したドキュメントや成果物、環境負荷物質情報などを関連付けて管理します。(図4)
受注前の引き合いフェーズでは主に見積回答が頻繁に行われますが、先行して部品番号を採番して検討ドキュメントを管理し、その後の設計検討~量産準備の間でも部品番号により情報が引き継がれることが肝要です。
製品開発プロセス(引き合い~設計検討~量産準備)間での部品番号による情報の引き継ぎは、以下のような例があります。例1の頻繁に採番が必要な引き合いフェーズでは部品番号の枯渇が要注意であり、例2では部品番号の枯渇の心配はありませんが、各フェーズの間で異なる番号体系の引き継ぎや運用が分かりづらいことが注意点になります。
【例1】同じ部番体系で情報の引き継ぎ
12345-0 : 引き合いフェーズ
12345-1 : 設計検討フェーズ
12345-2 : 量産準備フェーズ
【例2】異なる部番体系で情報の引き継ぎ
自社部品番号をキーに、部品がどの製品(親部品)、客先部品、製品プロジェクトに使われているか把握できないと、類似仕様への対応でも都度、新規設計同様に設計検討と量産準備を繰り返すことになりQCDの面でロスが大きくなります。
受注情報をもとに部品適用管理と部品構成管理をおこない、構成部品がどの製品に適用されているか自社部品番号をもとに把握できれば、部品共用・部品流用が可能になります。さらに、自社部品番号に関連するドキュメントも紐付け、最新情報だけでなく検討過程も管理することで、次回RFQ時の見積回答や設計検討時に、参考になる製品情報をスピーディに入手できるので、短納期の見積回答と精度のある見積提案が可能になります。
部品メーカーの部品仕様管理として、自動車メーカーの部品番号(客先部番)と自社部品番号を関係付けて管理します。(図5)
自社部番と客先部番は1:Nの関係にあります。従って、自社部番に変更が発生する場合、それが適用されている客先部番を検討する必要があり、かつ、迅速に客先部番をすべて抽出することが肝要です。
受注後の設計検討フェーズでは、諸元が異なる多様な部品(提案部品、メーカー指示部品、自動車メーカーからの支給部品、内製部品、外製部品)を取り扱いますが、その管理要件も異なります。
例えば、メーカー指示部品や自動車メーカーからの支給部品は、部品メーカーで仕様変更はおこなわないため、客先部番を利用することもできますが、提案部品は、部品の原価や共用範囲を把握したり、自社情報と客先情報が混在するため、自社部品番号を設定し客先部番と紐づけて管理します。
また、客先である複数の自動車メーカー、自社、部品メーカーで部番体系(番号桁数、意味あり/意味なし番号、など)が異なり、この諸元が異なる多様な部品管理も必要です。このためには、自社で部番体系を統一できる自社部品番号をキーに自動車メーカー、自社、部品メーカーの情報を管理できれば、客先部番をもとにした自社部品の共用管理や自社図面・関連ドキュメントの検索、また、客先部番をもとに自動車メーカーへの回答をスムーズに行えるので、設計検討のQCD確保が可能になります。
自動車メーカーからの適用車種の変更や客先部品の変更など仕様変更への対応では、部品番号(親部品番号)をキーに、部品構成、部品属性、部品履歴、図面などの関連情報を設計通知書に紐づけて設計変更管理と変更履歴管理をおこないます。(図6)
生産量の拡大やグローバル化の進展に伴う設計拠点・生産拠点の増加により、頻繁に発生する仕様変更では、台帳などによる手作業ミスや、関連情報の検索漏れなどにより、配布・伝達でタイムロスが発生しますが、設計通知書をもとに図面・CADデータなど関連情報を一式検索することにより、必要な部署、相手先にスピーディに情報伝達できるようになります。
通知書は、社内または社外からの通知、発信元や発信内容・適用時期にあわせた設計通知、生産通知、先行通知、正式通知、など種類が多々ありますが、いずれにしても業務フローにあわせた管理を行い、通知書に関連付けて関連ドキュメントを一式管理することで、必要な情報を必要な部署、相手先に確実かつスムーズに伝達することができ、トレーサビリティへの対応も図ることができます。
昨今の部品メーカーにおいて、BOMをキーにした最新の部品手配リストによる調達と、手配した部品の要件検討情報(CADデータ、解析データ、生産データ、関連技術文書など)を管理するシステム構築ニーズが非常に高まっています。
弊社では、設計、生産をはじめとしたPLMの各領域のエキスパートが在籍していますので、お客様へIT視点だけではなく業務視点での利用に基づき要件をまとめ、これを実現できるシステム構築支援を行っておりますので、ぜひお声掛けいただければ幸いです。
PICK UP