今年の6月に世界文化遺産として紀伊山地の霊場と参詣道が登録され話題になりました。世界遺産には普遍的価値を持つ建築物や遺跡などの「文化遺産」、優れた自然景観や貴重な動植物の生息地などの「自然遺産」、両方の要素を持つ「複合遺産」の3種類あるそうで、「紀伊山地の霊場と参詣道」は文化遺産として登録されたとのことです。ユネスコで選ばれた過去の世界遺産リストを見ると、ヨーロッパの絢爛豪華な宮殿、寺院や、月から見える(?)唯一の巨大な人工物といわれる万里の長城などは、確かに偉大ですばらしいのですが、同時に人間の権力や欲望の凄まじさや愚かさの結果であるともいわれます。とはいえ世界遺産とは本来そういうものが選ばれると思っていましたので、今回なぜ紀伊山地が選ばれたのか、ちょっとした驚きと興味を覚えました。
紀伊の霊場のなかでも代表的な那智の滝は、学生時代紀州半島一周旅行をした折り訪ねたことがあります。ある雑誌にフランスの思想家が那智の滝を見て、「永遠と無常が作り上げる日本人の精神的支柱と世界観を読み取り、自然と人間の感動的な協調にこころを動かされた」とありました。確かに滝下にはしめ縄や社(やしろ)があり、自然に対する畏敬の念からか落下する滝に何か宗教的な雰囲気を感じますが、当時の私は日本人でありながらその思想家ほどに、その奥深さを理解することは全くありませんでした。
有限の地球上で生物の仲間としての人間が自然と共生するためには、自然を征服する対象として見るのではなく、紀伊山地の霊場のような、自然のすばらしさと人間の造形の調和こそが世界遺産にふさわしいのではないかと思いました。
ところで自然と人間の調和の代表例として、少し前の日本にはどこにも「里山」がありました。里山は都市と自然の間にあって、人が手を入れ利用してきた森林です。私の子どもの頃は里山がいたるところにあり、カシやシイの木、クヌギなどの大きな木や、小さな木々、そしてきのこ類もいっぱいありました。木に登って大きな枝の間に自分だけの秘密の場所を作ったり、探検ごっこなど様々な遊びの場でもありました。しかしこの里山が実は食物や燃料の供給や防災など、人々が生きるためとても大切な役割を果たしていたとのことです。昭和30年代でしょうか、家庭燃料や肥料が草木から石油資源に替わるにつれ、里山に人が入ることもなく、荒れ果てそして開発などで今では殆どなくなってしまいました。里山がなくなるとともに、「里の秋」といった唱歌や、"里"という言葉も耳にしなくなり、今頃里という言葉に出会うと懐かしさや何かやすらぎを覚えます。しかし最近は温暖化などの地球環境問題が大きくなるにつれ、里山の大切さが再認識されるようになりました。そして森をきれいに、そして楽しい場所にしようといった活動が徐々に活発になっているようでとてもうれしく思います。
さて、弊社でも遅まきではありますが、以下の環境宣言の一環として「理念」と「行動指針」を掲げ、環境への取り組みを強化していくことにいたしました。
【 理 念 】
デジタルプロセス株式会社は、私たちの子孫と総ての生き物に蒼い空と碧い海、そしてみどりの大地を残すため、ITと物づくりの融合をめざすあらゆる企業活動を通じて、四つのR(Refuse、Reduce、Reuse、Recycle)に取り組みます。
【 行 動 指 針 】
環境問題を語るとき、一般的にReduce、Reuse、Recycleをまとめて、3Rと呼ばれ、循環型社会構築に不可欠なものとされますが、欧米ではRefuseを加えることも多くなっています。Refuseは本来、3Rのいずれにも適さないものは初めから使用を拒絶する(Refuse)、という意味で使われています。弊社では、このRefuseを行動指針の第一番目に掲げました。
私どものお客様は殆どが製造業ですので当然ながら物(人工物)を作ることが目的となっています。一方で開発・製造プロセスのデジタル化、バーチャル化がお客様側の大変な努力のもとに進められています。実はこのデジタル化の取り組みこそが、余分なものは作らないという環境保全の理念にふさわしい活動と思います。通常、新製品を開発する場合、多くの試作や実験が行なわれますが、これらに使った部品や試作品は、残念ながら一般に使用することはできないため、殆どが廃却されることになります。
例えば自動車産業では長い努力の結果この10数年で試作車台数は半分以下になっていると推察されます。また昭和53年、世界にさきがけ日本版マスキー法をクリアした排気対策は、その後の努力も含め奇跡的といってよいほどの進歩がありました。しかしそれ以上のスピードでモータリゼーションや工業化が進み、近い将来地球は環境負荷に耐えられなくなると予測されています。このような時代にあって、余分なものはできるだけ作らずして新製品を開発したい、というお客様のニーズに応えるべく、弊社の強い意志をこの「refuse」という言葉に込めました。
物を作らずに物作り力を高めるという、一見矛盾した課題に挑戦することは、嘗ての排気対策の時と同様に、結果としてデジタルプロセスの更なる高度化を実現するものと確信しています。
さて、ことのほか暑かった夏もようやく過ぎ、気が付くと早くも下期が始まりました。弊社の主なお客様である自動車産業も、3次元CADの導入も相当に進み、これからはパッケージソフトの販売が急激に減少するであろうと予測しています。その意味で下期以降は事業として大変厳しくなると覚悟をしなければなりません。一方で、せっかくご導入いただいた3次元CADの付加価値を更に高めるため、どのようなご提案や積極的なサービス・サポートが出来るか、弊社の真価を問われる期になるとも考えています。環境活動の行動指針にも掲げた、"余分なものは一切作らないプロセスの実現"に向け、結果(成果)に繋がるご支援ができてこそ、DIPROの付加価値や企業価値を認めていただけると考えています。そしてそこにしか弊社の生きる道はないと思っています。
環境への取り組みにおける"自然と人間の共生"と、弊社の社是ともいえる"ITと物づくりの融合"の二つのテーマは、その根底において何か通じるものを感じます。それは、それぞれが一方を無視したり、征服するといった関係であっては決して良い成果は生まれないように思います。この二つのテーマを追求することで、開発の効率化や地球環境の改善が進むだけでなく、お客様と弊社との関係が共生から共鳴へ、そして異質の融合による新たな価値の創造へと更に深まっていくことを願っています。引き続きご指導とご支援をいただけますよう、この紙面を借りお願い申しあげます。
(代表取締役社長 間瀬 俊明)
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