DIPROデンタル事業室では自動車開発で培ったCAD/CAM計測などの技術を、歯科用をはじめとした医療分野へ応用しています。そこではソフトウエアの開発はもちろん、歯冠を切削・研削する加工機や歯列形状を高精度で測定するレーザー計測機などのハードウエアについても独自に開発、販売を行っています。
今回はこのレーザー計測機を顔面の3次元計測ができるよう発展させ、フルオーダーのメガネ作製に適用いただいている事例をご紹介します。
ご活用いただいているお客様は株式会社アイメトリクスジャパン様(渋谷区道玄坂 末次正義社長)です。元プロ野球選手古田敦也氏のCMでご存知の方も多いかと思いますが、フルオーダーメイドを可能にした高機能メガネで有名な会社です。
アイメトリクスのメガネは、アイメーターといわれる計測機で顔形状を測定し、骨格、目の位置、耳の位置、鼻の形状などの測定点からメガネを掛ける時の支持点などを算出します。そのデータをもとに顔の立体形状に合わせてメガネをオーダーメイドで作ります。そのため、お客様一人一人の顔にフィットした掛け心地の良いメガネを作ることができます。アイメーターを設置した全国の特約店(メガネ店)からこれらデータがネットワークを介し、株式会社アイメトリクスジャパン様に送られ、同社が完成品を作製して納品するという独自の方式をとっています。
2001年に株式会社アイメトリクス様のご依頼を受け、より高性能な計測機の開発に着手しました。高精度化のためにはレーザー計測が有利ですが人の顔にレーザーを照射するので安全性に対して万全を期する必要がありました。そのためごく微弱なレーザー光でも正しく測定できる光学系を新たに設計しました。さらにお客様の拘束時間を短縮するため、信号処理系の高速化を図るなど従来の歯科用計測機とは異なる機能・性能を追加しました。その結果、全く新しいレーザー光切断式の顔計測機を開発することができました。測定時間は従来のアイメーターと比べ10分の1に、87箇所だった顔の計測点はほぼ無限大となり、計測精度も大幅に向上しています。
新アイメーターは2台のカメラを持ち、3次元計測のためのレーザー光追尾と顔の画像撮影を同時に行います。この時間は約0.1秒と高速です。レーザー追尾データから得た顔の3次元形状の上に顔画像(テクスチャ)を貼付けることによりディスプレイ画面の中にあたかも実際の顔があるようなバーチャルな画像を表示することができます。単なる画像ではなく正確な3次元情報を持っているので正面視だけではなく、側面、上下方向など任意の方向からの検討が可能になります。さらにメガネフレーム、レンズなどの3次元CADデータを重ね合わせれば、それぞれのメガネを掛けた時の様子を画面上で検討できるようになります。
また、新アイメーターでは近くを見た時に左右それぞれの目がどれだけ輻輳する(寄る)のか、目の動きを追尾してこれらの寄せ量など視野情報が分かる機能も持たせています。これにより物を見る時の癖などを考慮したカスタムレンズの設計データを提供することがきるようになります。現在、個別のカスタムレンズを作ることは技術面、コスト面からは可能ですが、お客様の視野情報を得る仕組みが整備されていません。今後、株式会社アイメトリクスジャパン様ではレンズメーカーとタイアップし、新アイメーターで得た視野情報を基にカスタムレンズを作製、装着した究極のアイウェアを目指していきたいとのことです。
6月26日に新規オープンしたイワキメガネ恵比寿三越ガーデンプレイス店(佐野寛店長)に実店舗設置1号機となる新アイメーターが設置されました。高級ブティックのテナントが並ぶフロアの一角にある、洗練されたおしゃれで綺麗な店舗です。新アイメーターを実際に操作している佐野店長にお話を伺うことができました。「まず最初に、撮影、計測がとても楽になったと感じました。新アイメーターの前に自然な姿勢で座っていただくだけで瞬時に計測されるためお客様の負担が格段に少なくなりました。あっという間に終わるため、お客様から『もういいの?』と聞かれることもあるんですよ。」また、一般のPD(*1)メーターは0.5mm刻みですが、新アイメーターでは正確な値を0.1mm刻みで出力します。「PD値の正確さに驚きました。PDが精密に測られている安心感があり、アピール力が増した」と佐野店長も話されていました。また、リピーターのお客様からは「撮影の仕方が前と随分違うんだね。進化しているな」、「顔の画像がよりリアルになって凄いね」といった感想もあるそうです。
新アイメーターでは目からレンズを離したり、近づけたりするのもバーチャル表示し、確認することが可能です。さらにバーチャル画面でそれぞれのメガネを試着した時の様子が確認できます。3次元の顔画像を任意の角度に回し、デザイン、色調、さらに目とレンズの距離を自在に動かし、顧客に見せながら実際に作る距離を決められます。まつげがレンズに触れないギリギリの位置も画面上で分かるので便利になった、出来上がりイメージが事前に分かり細かな設定を提案しやすくなったとご好評をいただきました。
さらに、今までは完成品のレンズの厚さは予想値だったため、見本のレンズを見せながら厚さの説明をしていました。そのため、玉型(メガネレンズのデザイン)の違いで出来上がり時の印象が異なり、クレームになる場合もあったそうです。今回は画面上に玉型形状に沿ったレンズの厚みが表示できるようになりました。もちろん、顔画像に重ね合わせればそのメガネを装着した状態を確認することもできます。そのため完成品とのギャップもなく、お客様の納得が得られ、販売がスムーズに行えるとのことでした。
「同じ度数なのに全然見え方が違う」という満足を提供することが佐野店長の一番の目標とのこと、新アイメーターで測定したデータで作ったカスタムレンズとアイメトリクスメガネの組み合わせであれば究極の見え心地と掛け心地が実現できます。
廉価なメガネが多数ある中、あくまで掛け心地、見え心地を追求した高品質のメガネづくり、モノづくりにかける関係者の皆様の姿勢、これは株式会社アイメトリクスジャパン様や各メガネ店の皆様の地道な研究と努力の積み重ねなのだと感じました。
お客様の進める「究極のメガネづくりの実現」に向け、DIPROの持つCAD/CAM/CAE計測の諸技術を通してさらに応援、協力させていただきたいと考えています。
最後に取材にご協力していただいた株式会社 アイメトリクスジャパンの末次正義社長、イワキメガメ恵比寿三越ガーデンプレイス店の佐野寛店長、株式会社興隆出版社「THE EYES」編集部の鎌田弘毅氏の各氏に感謝いたします。
(デンタル事業室 室長 藤原 稔久)
(*1) PD:瞳孔間距離。メガネ設計の基本となる重要なファクター、これでレンズの中心位置が決まる。
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