弊社では、自動車産業で培ったCAD/CAM技術の異業種への転用を狙い、歯科用CAD/CAMシステムを開発してまいりました。その歯科業界で、この度新たにCAD/CAM学会が設立されましたので、ご紹介いたします。
去る3月28日(日)、都市センターホテル(東京都)において、“Digital Dentistryが将来の歯科医療を変革する!”をテーマに「日本歯科CAD/CAM学会設立総会・記念学術講演会」が、開催されました。
歯科医療界では、テクノロジーの変革に伴ない、多くの分野でデジタル情報の必要性が高まってきています。特に患者に提供する歯科補綴物には高精度、高品質化が求められ、歯科医療の高度化が求められています。従来、歯科技工士が匠の技で一つずつ手作りしてきた補綴物の作製に、CAD/CAMが導入されるようになり、高精度な修復物を効率的に製作できるようになりました。また、審美的要求の高まりや金属アレルギーに対する不安からメタルフリーレストレーション(金属を使わない歯科治療)への関心が高まり、高強度セラミックスやハイブリッド型コンポジットレジン(注1)などの材料開発が進み、それらの加工にはCAD/CAMが用いられています。その他にもインプラント治療におけるサージカルガイド(注2)、カスタムアバットメント(注3)、上部構造の製作などにも、CAD/CAMが積極的に適用されています。
これらDigital Technologyに期待する機運の高まりが、今回の日本歯科CAD/CAM学会設立につながりました。世界的に見ても、歯科に限定したCAD/CAM学会というものは例がありません。その設立総会に250名もの人が集まり、21社のメーカー展示がありました。歯科医療界でのCAD/CAMに対する期待の大きさが伺えます。
注1) 歯の欠損部を埋める歯科用プラスチック。
注2) 歯科インプラントを手術するため、あごの骨に専用ドリルで穴を開ける際、ドリルの挿入方向や角度を正確に導くための医療器具。
注3) アバットメントとはインプラントを植立するためにあごの骨に打ち込むネジと人工の歯をつなぐ連結部分のこと。カスタムアバットメントとは個々の症例に合った形状に合わせたアバットメントのこと。
学会についてご報告する前に、まず簡単に歯科用CAD/CAMシステムについてご説明します。
歯科用CAD/CAMシステムは、大きく分けて歯科補綴物(治療後の歯に被せたり[クラウン/歯冠]、つめたり[インレー]するもの)を作成するシステムと、インプラント(顎骨に人工歯根を埋入する治療法)による治療をサポートするシステムとがあります。(他にも歯列矯正用のシステムなどもあります。)
歯科補綴物作成システムには、歯牙と同程度の硬さを持ったガラスセラミックスやチタンなど金属を加工して最終的な歯冠形態を持った修復物を作成するものと、高強度のセラミックスであるジルコニアを用いて、強度的に不安のあるガラスセラミックスを裏から支えるベース(コーピング)を作製するものとがあります。これらに用いられる材料は、従来の手作業による方法では加工が難しく、手間がかかり、CAD/CAMに頼らざるを得ないものです。
インプラント用のシステムでは、CTスキャンのデータから、治療計画を立てインプラントの埋入位置を決めたり、穿孔・埋入をガイドする冶具(サージカルガイド)を作製したりします。
設立総会では、発起人代表の一人である、昭和大学 歯学部長 歯科理工学教室教授 宮崎隆先生が、会長に選出されました。宮崎先生には、弊社がデンタル事業に関わるようになったごく初期からご指導いただいております。
歯科に関してはまったくの素人であった私共に、歯冠修復物に必要とされる要件や形態設計の考え方を一から丁寧に教えていただきました。それこそ専門用語の読み方からです。こうして育てていただいた弊社技術が歯科治療の高度化に多少なりとも貢献できたのであれば、とてもうれしく思います。
本会では、歯科界における著名な方々のお話を伺うことができました。どの講演者の先生方もCAD/CAMの有用性や精度の高さ、今後の将来性についてご紹介いただきました。
例えば、診断、治療はもちろん、今や教育に応用する試みも始められています。口腔内での精緻なハンドルスキルを習得するため、最先端バーチャルリアリティ技術を用い、触覚を再現するトレーニングシステムが開発されています。
しかし、その一方で技術が進歩し、便利な器具が登場しても、ヒューマンエラーも起こりうるので、決して過信してはならない、と注意を喚起される場面もありました。どんなに技術が進歩したと言っても、まだまだ開発の余地は十分あるということを改めて認識しました。
弊社では、1992年より歯科用CAD/CAMシステムを開発してまいりました。1995年 日本デンタルショーには世界に先駆けて歯冠形状を自動設計する歯科用CAD/CAMシステムを発表しました。その時には、歯科技工士の方々に、「仕事を奪う気か!」と、あらぬ不安を与えてしまうほどでした。しかし技術が進み、従来通り人の手で加工するのが難しい材料が登場したことにより、ようやくCAD/CAMは歯科医療界に受け入れられるようになりました。歯科技工士の方々には、より高付加価値な審美性を求められる分野の仕事に専念していただくため、CAD/CAMを最大限に利用し、精密な形の土台作りに尽力してまいりたいと思います。
現在弊社では、国内向けに歯冠修復物を作成するシステムと、主に海外をマーケットとするジルコニアコーピング用システムをご提供しています。また、矯正歯科向けに歯牙模型デジタル化サービスも実施しております。今後は、ビューワの機能を強化して歯列矯正用CAD/CAMシステムを構築しようと考えています。秋には第69回日本矯正歯科学会大会が開催され、弊社も展示を計画しております。
さらには、顎模型計測データとCTスキャンデータを合成し、歯列矯正の外科手術支援や、インプラント治療の診断・治療計画立案に始まり、手術支援やインプラント、上部構造の設計・加工まで包括的に支援するシステムの構築を視野に入れています。
日本歯科CAD/CAM学会設立により、ますます盛り上がるDigital Dentistryへの期待に応えるべく、今後も努力してまいります。
(デンタル事業室 梅川 克己)
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