日本は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。カーボンニュートラルを実現する為には化石燃料に依存する産業や生活のエネルギー源をクリーンな電気に転換し、様々な機器を電動化する脱炭素社会の実現が不可欠です。例えば、自動車分野ではEV、HEV、FCEVなどの電動車の拡大、住宅や冷暖房の分野では燃焼からヒートポンプによる給湯や暖房への転換など、様々な分野でシステムの電動化が進んでいます。
本記事では、近年特に注目を浴びている電動化システムにとって重要な「熱マネジメントシステム」の開発に対し、マルチドメイン・システムシミュレーションツール「Simcenter Amesim」がどのように活用できるかをご紹介します。
自動車分野では、タンクに貯めたガソリンなどの燃料をエンジンに供給、燃焼させ、熱エネルギーを回転運動に変換して走行するICEV(内燃機関車)から、バッテリに蓄電した電気エネルギーを電気モータにより回転運動に変換して走行するEV(電気自動車)にすることで電動化を実現しています。
しかし、バッテリに蓄積できるエネルギーは、重量が数百kgの100kWh級のバッテリであっても、ガソリン約10.8L相当(※1)と非常に限られています。そのため、エネルギーをできる限り無駄なく活用することが重要な設計課題となります。
このため、減速時や下り坂走行時にモータを発電機として利用し、回生エネルギーをバッテリへ充電するなどの工夫が行われています。
一方、住宅分野においても、屋根に設置された太陽光パネルとバッテリを組み合わせ、昼間に発電した電力をバッテリに蓄積して夜間に使用するといったエネルギー運用が行われています。
このように、バッテリを活用した電動システムはエネルギー利用効率を高める大きな利点を持ちますが、バッテリの性能を最大限に引き出すためには、バッテリ特有の課題への対応が欠かせません。例えば、次のような代表的な課題があります。
このように、環境温度や使用状態によってバッテリ性能が変化し、電動システムが想定どおりの性能を発揮できなくなってしまう場合があります。
熱マネジメントとは、環境温度や使用状態が変化した場合でも、バッテリ温度を高過ぎず、低過ぎない適切な範囲に制御し、電動システムの性能を最大限に引き出すことを目的としたものです。
下図は、EVの熱マネジメントシステムの構成例(コントローラは省略)です。
この熱マネジメントシステムは、
の四つの回路と複数の熱交換器および流量制御用バルブによって構成され、以下の様に動作します。
熱マネジメントシステムのような複雑なシステムや、システムを構成するサブシステムの開発においては、詳細設計に入る前に1DCAEモデルを用いたシミュレーションにより、
など
を事前に確認することが大切です。
EV熱マネジメントシステムをSimcenter Amesimで1Dモデル化すると、以下の様になります。
この熱マネジメントシステムの1Dモデルには、バッテリやモータ / インバータを含む電気、車両を加減速させる機械、機器の温度を決める熱や流体、エアコンシステムのモデル化に必要な二相流体など多岐に渡る物理領域が含まれています。そのため、熱マネジメントシステムの開発においてモデルを作成・活用しようとすると、幅広い物理分野、特に専門外領域の知識や情報が求められることが障害となり、思うように進められないと感じている方も少なくありません。例えば、以下のような課題が挙げられます。
この様な悩みを解決する手段の一つが、マルチドメイン・システムシミュレーションツール「Simcenter Amesim」の活用です。
前章で挙げたような課題の解決策として、弊社ではマルチドメイン・システムシミュレーションツール「Simcenter Amesim」の活用をお勧めしています。
Simcenter Amesimは、熱マネジメントシステムのモデル化に必要な電気、流体、熱、機械、二相流体といった幅広い物理領域を網羅する豊富な物理ライブラリを備えています。
先の熱マネジメントシステム構成例とSimcenter Amesimモデルが同じ構造であることからも、Simcenter Amesimを使って、各物理領域の「コンポーネントモデル」を配置して接続することで、複雑なシステムを直観的に1DCAEモデルとして構築可能なことがご理解いただけると思います。
(Simcenter Amesim 製品詳細をご参照ください。)
また、各ライブラリにはモデル作成を効率化するための便利なツール(アプリ)が多数用意されており、プラントモデル作成の大きな助けとなります。以下に、その一部をご紹介します。
バッテリのモデル化においては、容量、SOC-OCV特性、SOC-内部抵抗特性など、どのようなパラメータ値を設定すべきかわからないという課題がよくあります。こうした課題を解決する二つのツールをご紹介します。
一つ目は「Pre-calibrated Tool for Battery and Ultracapacitor」です。本ツールにはLFP(リン酸鉄)、NMC(ニッケル マンガン コバルト)など、さまざまな正極材を用いた市販バッテリの特性データやパラメータがあらかじめ登録されています。これを利用することで、バッテリモデルへパラメータを容易に設定ですることがきます。
二つ目は、数値データは入手できないものの、採用したいバッテリの放電特性グラフなどの画像データが手元にある場合です。この場合は「Battery Datasheet Import Tool」を使うのが便利です。本ツールを用いることで、①画像データの数値化、②読み取ったデータからOCVや内部抵抗を計算しモデル化、③読み取りデータとモデルデータの誤差評価までを一連の流れで実行できます。得られたモデルデータは、そのままバッテリモデルへ容易に設定することが可能です。
「Battery Datasheet Import Tool」のワークフロー
※画像をクリックすると拡大します
熱交換器にはさまざまなタイプが存在します。先に示したEV熱マネジメントシステムの構成例では、冷媒(二相流体)-空気間が二つ、冷却水-空気間が一つの計三つのプレート - フィン型熱交換機に加え、冷媒 - 冷却水間、冷却水 - オイル間の二つのブレーズドプレート型熱交換機、合計五つの熱交換器が用いられています。
こうした多様な熱交換器のモデル作成を支援するツールが「Heat Exchanger Assistant」です。本ツールでは、熱交換器のタイプを選択し、寸法データなどの基本データを入力することで、自動的にモデルを生成することができます。
開発初期段階ではデフォルトの相関式やパラメータを用い、特性データが手元に無い場合や、必ずしもこの分野の専門家ではない場合でも、熱交換器モデルを構築できる点が大きな特徴です。開発の進展に応じて確認の取れた特性データに置き換えていくといった使い方も可能です。
Generic
Fins and tubes
Plate and fins
Brazed plate
Heat Exchanger Assistantでモデル化できる熱交換器のタイプ
弊社では、Simcenter Amesimによる1DCAEモデルの作成から、モデルを活用した開発支援までを対象としたMBD(Model Based Development)エンジニアリングサービスを提供しています。
電動化領域や熱領域で豊富な経験を持つエンジニアが、お客様の課題や悩みをお伺いしながら、実務に即した形で課題解決をご支援します。
本記事では、最新のEVを題材とした熱マネジメントシステムの概要、1DCAEモデルを用いた検討時に直面しやすい課題、Simcenter Amesimが備える便利な機能の一部をご紹介しました。
弊社では、以下のMBDエンジニアリングサービスを提供しています。
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